約 2,287,852 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/862.html
涼宮ハルヒの追憶 chapter.0-Birthday- 涼宮ハルヒの追憶 chapter.1 -call pastrain- 涼宮ハルヒの追憶 chapter.2 -cruelgirl sbeauty- 涼宮ハルヒの追憶 chapter.3 -VeryMerryHappy- 涼宮ハルヒの追憶 chapter.4 -AirReason- 涼宮ハルヒの追憶 chapter.5 -MagicalRomanticFreestyle- 涼宮ハルヒの追憶 chapter.6 -We aretheMassacre- 涼宮ハルヒの追憶 Intermission -allimperfectlove song- 涼宮ハルヒの追憶 Intermission-daydreamloveletter- 涼宮ハルヒの追憶 Intermission -breathcannotescape wall-
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/775.html
翌朝、少し早く教室に着いたオレは、先に来ていたハルヒを見て驚いた。 どういう風のふきまわしか、ハルヒは中途半端な長さの髪を後ろでひとつにまとめていた。 キョン(あれもオレの願いだったのかな?) 席に着くと、ハルヒが話しかけてきた。 ハルヒ「ねえアンタ、昨日あれから有希となんかあったの?」 キョン「い、いや、特になんもねえよ」 ハルヒ「私気づいたら部室で寝てたんだけど、その間有希をどっかに 連れまわしてたんじゃないでしょうね?」 なかなかするどいヤツだ。たしかに、つかの間のツーリングを楽しんだり、 倉庫の中を探検したり、異世界に飛ばされたりといろいろしていたことは事実だ。 キョン(別の長門だけどな) キョン「そんなことしねえって」 ハルヒ「あ、そう。・・ところでアンタ、文芸部に興味あるんだって?」 キョン「どういうことだ?」 ハルヒ「有希がね。キョン君・・アンタを文芸部に誘えないかってね。前からずっと うるさかったのよ」 キョン(・・・・・) ハルヒ「で、今ね。3年の先輩が卒業しちゃって、部員数が足りない状態なのよ。 私と有希、2年の朝比奈先輩がたまに顔出してくれるから、今んとこ3人しか いないってわけ」 キョン(朝比奈さんも文芸部員だったのか) ハルヒ「まあ今決めろっつっても難しいだろうから、ヒマだったら放課後ウチに 来てみなさいよ。わ、私はどっちでもいいんだけどね・・有希が喜ぶと思うわ」 キョン「そ、そうか?」 はからずともSOS団のメンバーが大半集まってしまうことになるようだ。もしかしたら 古泉も・・・来るわけないか。 ハルヒ「・・・アンタ、少し雰囲気変わったわね」 キョン「・・どこがだ?」 ハルヒ「うまく言えないんだけど・・その、なんか数年ぶりに会ったって感じがするわ。 ・・・まあそんだけよ。特に深い意味はないからね」 少し照れながらハルヒは言った。 少し教室を見渡すと、あの朝倉もいた。他の女子に囲まれて、にこやかに話をしている。 こっちは本物の朝倉だろうな・・・ 本人は無関係とはいえ、何回も殺されそうになった相手が同じ教室にいるってのは かなり違和感がある。まあ、もうしばらくの辛抱だ。 休み時間に教室を出ると、不意に声をかけられた。 「また会いましたね、キョン君」 声のする方向を見ると、そこには古泉が立っていた。いつもと変わらない微笑みは・・ っておい!どういうことだ!?本物の古泉は不良少年だったはずじゃ・・・ 古泉「驚きましたか?いやあ、僕もいまだに信じられないんですが、気づいたら こうなっていましてね・・・昨日あなたにお別れを告げて実体を失った後、 目を覚ましたら例の倉庫にいたってわけです」 キョン(倉庫にいたのは本物の古泉のはずだ・・まさか) 古泉「本物の僕はあなたによっぽど嫌われていたのかもしれませんね。 まさか僕が本当に本物と入れ替わってしまうとは想定外でした。 さて、これもあなたの願いってことになるんでしょうか」 キョン「・・お前、もしかして超能力も使えるのか?」 古泉「今のところ能力はないようです。またどこかで閉鎖空間が発生すれば、 再び使えるようになるのかもしれませんね」 なんてことだ。昨日ハルヒと一緒に願ったことがいきなり実現してしまうとは・・・ オレは自分がかけた願いに、はやくも後悔しはじめていた。 超能力者だけでも除いておけばよかったかな・・・ 古泉「放課後、僕も部室に向かいます。あ、そうそう。今の世界では僕は 成績優秀の転校生ということになっていますから。よろしくお願いしますよ」 なんだそりゃ。自慢か?オレだって今や成績優秀者だぞ・・・一時的にだけど。 しかし、時空改変の結果がこうも早く現れるとは思わなかった。 ・・・ちょっと待て。てことはもしかして、世界は今や宇宙人や未来人や超能力者が そこらをうろついててもちっともおかしくない状態になってしまったのか? いまさらながらオレはとんでもないことをしてしまったんじゃ・・・ 放課後、オレは文芸部部室まで足を運んだ。部屋にいた長門はとびきりの笑顔で オレを迎えてくれた。無表情の長門に慣れていたせいか、少し違和感があるが 笑顔の長門もなかなか可愛いじゃないか。 しばらくしてハルヒや朝比奈さん、そして古泉がやってきた。 ハルヒはオレと古泉にひとしきり活動の説明をした。その後、長門の強引な勧誘もあって オレたちはうやむやのうちに文芸部へ入部することになった。 キョン(なんだかSOS団再結成って感じだな) こうして、再びオレはハルヒたちと同じ時間を過ごすことになった。 やがて学校は春休みに突入し、しばしの休息の時間が訪れた。 キョン(今日は文芸部の集まりがある日だったな) 昼の1時に集合という予定だったがオレは早めに家を出たため、学校に着いたときは まだ正午にもなっていなかった。 部室に入ると、長門がいつもの場所で本を読んでいた。 キョン「よっ、長門。今日はえらく早いじゃないか」 おもむろに顔をあげた長門は、じっとオレの顔を見た。 キョン(長門・・・?まさか!?) 長門「久しぶり」 キョン「長門!?お前どうして・・」 長門「緊急事態。あなたの力を借りたい」 そこにいたのは、なんと再び帰ってきた宇宙人、長門有希だった。 オレが唖然としていると、部室のドアが開いて古泉と朝比奈さんが入ってきた。 古泉「キョン君、大変です。この近くで再び大規模な閉鎖空間が発生したようです」 キョン「閉鎖空間って、またお前そんな唐突に・・じゃなくて、朝比奈先輩の前でわけのわからんことを言うな」 みくる「あれ?キョン君、もう私のこと忘れちゃったの・・?」 キョン「!!まさか、朝比奈さん・・?」 みくる「うん。長門さんから非常事態って聞いたもんだから、無理して出てきちゃった♪」 キョン(非常事態のわりにうれしそうなのは気のせいか・・・) 古泉「昨日の晩から僕の能力が復活していたんですよ。長門さんから話を聞いて 納得しました。元時空改変能力者としてあなたの力が必要です」 そのとき、部室のドアが大きな音とともに勢いよく開かれた。まさか・・・!? ハルヒ「キョン!大事件よ!!今からSOS団総出で調査しに行くわ!」 キョン(ハルヒ!?・・ハルヒまで戻ってきたのか) ハルヒ「なにボケッと突っ立ってんのよ!はやくしなさい」 ハルヒはオレの手をつかんで強引に部室から出た。オレの顔を見ると、ハルヒは 満面に笑みを浮かべた。 ハルヒ「私たちの願い、ちゃんとかなったでしょ?」 キョン「・・ああ、そうだな」 ハルヒ「それじゃ、みんな行くわよ!覚悟はいいわね!」 どうやらオレたちの願いは完全に現実のものとなってしまったようだ。 世界は一体これからどうなってしまうのか。ひとつ言えることは、確実に面白い方向へと 進んでいくだろうということだ。・・・まあそういうことにしておこう。 まだまだオレたちSOS団の活動は終わりそうにない。 涼宮ハルヒの消失(偽) -fin-
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1798.html
谷口「なぁ、キョン。涼宮と何があったんだ?」 国木田「何かふたりの間に見えない壁が見えるんだけど」 キョン「さらりと矛盾した事を言うな国木田。 端的に言えば・・・SOS団は解散、俺はハルヒに、もう口も聞かんだろうな」 谷口「は!?お前とハルヒって付き合ってたんじゃねぇの!?」 キョン「ちょwwwそんなわけねーだろバーローwwwwwwww あんな奴となんて死んでも付き合いたくねーよwwwwwwwwww」 谷口「そ、そうだよな…」 キョン「でも、あいつけっこう良い体してるしな。一回くらいヤってから捨てれば良かったかwwwww」 国木田「それ、まだ出来るんじゃない?」 谷口「…どういうことだよ国木田」 国木田「だって、涼宮さんは明らかにまだキョンに未練タラタラだよ? キョンが涼宮さんに声かければ、1発ヤルくらいなんでもないと思うんだけど・・・」 谷口「ちょw何でお前まだ涼宮がキョンに気があるって分かるんだよwwwwww」 国木田「バーローwww俺のツンデレスキーとしての経験値舐めんなってのwwww 俺の所持エロゲーの8割はツンデレ登場してるぜ?wwっうぇっうぇwwww」 キョン「そうだな・・・やるか。谷口、国木田、お前らも来るか?」 谷口・国木田「さすがキョンさん!そこに痺れる憧れるぅ!」 キョン「ただ、何だ。俺は、和姦物よりもレイプ物の方が好きだからな。 こうしよう、ちょっと二人とも耳貸せ。ごにょごにょごにょ……」 ハルヒ「キョン…人気のない夜の校舎なんかに呼びだして…まさか……」 キョン「来たか」 ハルヒ「キョン!?一体こんな所で何の用!?つまんない事だったらタダじゃおかないわよ!」 キョン「つまんないことじゃねぇよ。少なくとも俺達にとってはな…」 ハルヒ「達?」 キョン「谷口、国木田。出てこいよ」 ハルヒ「っ!?」 すばやくハルヒを抑える谷口と国木田。 ハルヒ「ちょっ…ちょっと!離しなさいよ!キョン!これは何のつもり!?」 キョン「は?お前も分かってんだろ。」 ハルヒ「………そういうこと、だったんだ。これじゃ、これじゃあたし、馬鹿みたいじゃない…っ!」 谷口「うおっ!暴れんじゃねぇてめー!」 キョン「面倒だ、縛っとくか」 国木田「さすがキョンは迅速に鬼畜な判断を下してくれる」 縛り上げられ、地面に転がされたハルヒ。既に抵抗する気も無くなったらしい。 その瞳に浮かぶ感情は、俺には読み取る事など出来るはずもなかった。 キョンが近づいてくる。私が、今から数分前まで好きだった男だ。 キョン「一番槍は俺が貰うわ。いいだろ?」 谷口「もちろん」 国木田「後で4Pもやるよね?」 キョン「おう。よっ……と」 パンツを下ろされた。キョンも、自らの―――を出す。 私は、キョンと初めて会った日の事を思い出す。 入学式の日。初めて自分の座席に座った日。そして私の前に座った男。キョン。 それが最初の出会い。正直言って、このときの事は全く覚えていない。 ただ、数日後。彼が私に話かけてきた事は、一応覚えている。でもその時はまだ、 他のつまらないクラスメイトと同じとしか考えていなかった。 彼をちゃんと認知し始めたのは、私の髪型の法則に気づいたとき。多分そこ。 そして、彼を部活に誘った日。それから、SOS団を結成し――― ―――ああ。私は、いつから彼に惹かれ始めていたのだろうか。 今となっては分からない。ただ私に分かる事は、今、私はキョンを好きだということだけ――― ハルヒ「っ痛――!」 キョン「く、きついな…やっぱ濡らしてないからか…」 国木田「だが、それがいい(ニヤ)」 キョン「さすが国木田はよく分かってる」 ハルヒ「ギ……!っつ、あ、ああああああぁっ!!!!」 痛い。痛い。いたい。 痛いのは体だけじゃない。痛いのは心。好きな人に犯されているという、ここの状況。 ハルヒ「う……う、うううううぅっっ………!!あ、あああああああああ…………!!!」 国木田「こいつ、泣いてやがる。そんなに痛かったのかね? へ、普段気が強い奴の泣き顔ってのもそそるもんだな。」 どうして。どうして。どうして。 どうして、こんなことになってしまったのだろう。 色んなことをした。 みくるちゃんを誘って、 古泉君を誘って、 有希から文芸部室を借りて、 SOS団を作った。 コンピ研からパソコンを奪ったりもした。 街の不思議探し、何ていうのもしたっけ。 あはは、キョンと二人きりになろうとして、くじ引きで二組に分かれたりもしたっけ。 あの時は、結局キョンと一緒にはなれなくて、キョンはみくるちゃんと有希と一緒に… デート、して…あはは、あの時は妬いたなあ。有希ちゃんの時なんかは、キョンったらすっごい遅刻してきたし… ……本当に。 どうして。どうして。どうして……… 涙が溢れる。 キョン「ん・・・そろそろ出るな」 谷口「何だ、意外と早いんだな」 キョン「俺は連発式なんだよ。1発までは早いが連射が効く」 国木田「マジカwww何そのニュータイフwwwwww」 キョン「んっ……!」 キョンが、私の膣に××を出しているのを感じる。 私が何度か彼を想って自慰をした時の事を思い出す。 こんなはずじゃなかった。私と彼の初めては、こんなものじゃなくて、もっと、もっと… 愛していた。わたしは、彼を愛していた。いや、今も愛しているのかもしれない。 いまのわたしには、それすらも分からない。 ただ、今までの彼との思い出がよみがえる。 ハルヒ「キョン…好き……」 キョン「……?は、ははっ! こいつ、犯されてるのにまだこんなこと言ってやがる! ついに頭イカレたか!?ま、最初っからイカれてたけどな!はっははは!!」 谷口「う、うおおお!何か俺燃えてきたぜキョン!」 国木田「(コレだ…これがツンデレの破壊力…!真価…!僕は、新しいステップを登った気がする…!) キョン「そろそろお前達も参加するか?」 谷口「俺は口だ」 国木田「じゃ、せっかくだから俺はこの汚い穴を選ぶぜ!」 谷口「っつーかいきなり4Pなんすねキョンさん」 キョン「当然だろ?」 国木田「え?じゃあお前は何を考えてたわけ?」 谷口「(こいつらレベルたけーよ・・・)」 だれかが、わたしの口に何かををつっこんでいる。 きもちわるい。 のどのおくにあたる。 はきけがする。 だれかが、わたしのおしりのあなになにかをつっこんでいる。 いたい。 すごくいたい。 きょんが、わたしのなかでうごいている。 なんなんだろう。めちゃくちゃだ。 もういやだ。 なにもかんがえられない。 かんがえたくない。 ああ――― これが、 ぜんぶ、 ゆめだったらいいのに……… 「よーし、HRはじめるぞー」 俺は出席を取り始める。 「あー、涼宮は…今日も欠席だ。」 あの時は本当に大変だった。俺の担任をしているクラスで、4人の生徒が行方不明になったのだ。 その内の一人、涼宮ハルヒはすぐに見つかった。校内にいたからだ。 ただし、暴行されたまま、放置されているのが。 犯人は分からない。同じく行方不明になった3人の男子生徒ではないかと無粋な週刊誌は騒いでいるが、 現場にはその生徒達の体液はおろか、髪の毛一本落ちていなかったのだ。 そもそも、俺は自分のクラスの生徒達を信じている。あいつらがそんな事をする訳はない。 大体、行方不明になった生徒の一人は、涼宮ハルヒと非常に親しくしていた。付き合っていたという噂もある。 そんな彼が、あんな事をする訳もない。しかしそうすると、犯人は誰なのか。 とにかく、一刻も早く犯人が捕まる事を願っている。 「………」 とある家のベッドで、一人の少女が眠っている。 その頬はこけおち、快活に校内を駆け回っていた姿は見る影もない。 彼女の精神は、ボロボロだった。 まだ見舞いに来る友達もいない。それもそうだろう、暴行された少女にかけられる言葉を 持っている者など、そういるはずもない。 ただ一人だけ、髪の長い女子生徒が、毎日花を届けに玄関先までやってくるそうだ。 「…う、うううううぅっ………!」 「……」 とある部屋に、二人の少女がいた。 一人は涙を流し、一人は、無表情――最低でも、そう見える――な少女。 「どうして、どうしてこんなことに―――」 「わからない。ただ、涼宮ハルヒが能力を喪失した時点で、起こりえた可能性」 「わたしが、わたしがもっと早くに気がついていれば、ここまでひどいことには―――」 「仕方がない。涼宮ハルヒの能力がなくなった事により、私たちの能力は大幅に低下した。 この処置が出来ただけでも運が良かったと思うべき」 「…でも、でも……… いえ、ごめんなさい。私は何もしてないのに。私が、あなたに頼んだだけなのに……」 「違う。これは、きっとわたしも望んだ事。わたしもあの光景を見たとき、 何故かこうする衝動を抑えられなかった。恐らく、エラーが溜まっていたんだと思う」 「でも、そのせいであなたは…」 「消える。しかし、私たちはあなたたちのような有機生命体とは根本的に死の概念が異なる。 …それに、わたしはこの行為ができたことに非常に満足している。」 「……」 「統合思念体が決定を下した。私は、あと5.2719秒後に消滅する。 …………ばいばい」 片方の少女が、キラキラと光の粒子になって消えていく。 それを赤い目で見つめる、もう片方の少女。 「わたしの…わたしの力が足りなかったばかりに… ごめんなさい、涼宮さん…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい………」 END ~鶴屋さんの補習授業~ はいっ!鶴屋先輩の補習授業の始まり始まり~! えーと…原因は、言わなくても分かってるにょろね? キョン君の鬼畜っ!オニっ!悪魔っ! 分かったら、さっさとあの選択肢に戻ってやり直すっ! …実は、もう一つの選択肢を選んでもBAD ENDなんだけど… それはあっちの補習授業で、詳しく教えて上げるからさっ! それじゃ、あっちの補習授業で会うにょろ!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1597.html
「ストラァーイク! バッタアウトォッ!!」 スポーツの秋、という言葉を知っているだろうか。 他にも格言がある通り、秋とは過ごし易い季節の一つでもある。 さて、ここで問題だ。 俺達SOS団(既に一括りにされているのが哀しいが)は、何故ここにいるのか。 何、ヒントが少ないって。 仕方が無い、まずここは市内にある野球場だ。 そして俺は、現在ネクストバッターサークルと呼ばれるものの中にいる。 ああ、それじゃ『何をやっている』かはわかっても『何故ここにいるか』はわからないか。 目敏いな、おい。 わかったよ、それは順を追って説明しよう。 とにかく、今は目の前のことに集中しないといけないからな。 「キョン!!」 バッターボックス手前、見慣れた黄色いカチューシャが揺れる。 ていうか、そろそろ本名覚えろよ。 「何だよ…」 何故、こうなったのか。 説明することは、とても易い。 だが、理解するのはし難い。 何ともまあ、アレな状況な訳だ。 SOS団状況。 「ここであべっくほーむらんとやらを打って、一気にサヨナラよ!!」 「打てるかっ! んなもんっ!!」 溜息を吐く。 何故、こうなったのか。 とりあえず、順を追って説明することにしよう。 ※ 「キョン! 明日までに九人集めて来なさい!!」 「…は?」 ホームページの更新(秋用にしなくてはならないらしい)をしている俺の元へ、災いの種。 始まったよ、いつもの病気が。 いつもと変わらない、秋のSOS団部室。 だが、その見解は間違っていた。 いつもと変わらない が 嫌だから という、 涼宮ハルヒ という人物がこの SOS団 というものを立ち上げたんじゃないか。 つまり、日常は無いのだ。 「今度は何の気紛れだ…そんなもんに、付き合う暇は」 「団員は五人! 残りは四人だからね! 後宜しく!!」 そのまま、ひゅっと部室から走り去るハルヒ。 いや、ちょっと待て。 完全無視かい、アイツ。 「おやおや…始まりましたねえ、涼宮さんの 気紛れ 」 向かいのテーブルでバックギャモン(とかいう、長門がだんだん専門書とかを見るようになったように、古泉もだんだんマイナーなテーブルゲームを持ってくるようになった。)をしていた古泉が、思い出したように話しかけて来る。 「他人事じゃねえっての…」 危機感持てよ、お前等。 「まあ…今回の件は慣れたことですし、簡単に済ませるでしょう」 持っていた本を閉じると、そのまま本棚に戻す。 ちょっと待て、慣れたことって。 「ほらほらあーっ!!千本ノック行くわよーっ!!」 「「「お願いっしまーすっ!!」」」 「……」 あまりにも、聞き慣れた声だった。 「先程、そのような電話をなされていましたから」 「……」 いや、説明遅いから。 そのまま、背凭れに身を預ける。 ああ、せっかくの休日なのに。 そう思いつつ、明日のメンバーについて思案している俺がいた。 ※ 「って前回と同じじゃない!!」 「知るかんなもん! 九人集めりゃ良いんだろ!!」 翌日俺達は、学校のグラウンドに集まっていた。 俺。ハルヒ。朝比奈さん。長門。古泉。鶴屋さん。谷口。国木田。妹。 以上、前回と寸分と変わらないメンツ。 「しょーがないわねぇ…我慢してあげるわ。アンタにしちゃ頑張ったんだろーし。」 アンタにしては、って何だよ。 「えーと、野球するわよ」 直球(アバウト)過ぎだろ。 「とりあえず、相手来たらウォーミングアップするから。以上!」 こんなに適当過ぎなのを「以上!」の一言で片付けるなよ・・。 そのまま、野球部の部室の方へ歩いていくハルヒ。 「ま…また野球…なんですか…」 一通りの話を聞いて、マジで凹んでる朝比奈さん。 「今日は簡単なポジションにしますから、大丈夫ですよ」 とりあえず、気は紛らわせておこう。 どちらにせよ、立ちっ放しなんてポジションは無いんだし。 「あ、ありがとうございます…でも、そしたら皆さんのシワ寄せが…」 「大丈夫ですって!俺の親友達も張り切っちゃって張り切っちゃって…ホラ、アイツなんてもう半裸でノックを受ける気満々っすから!」 「勝手に半裸にすんなっ!!」 何だ、乗ってくれるとはわかってるじゃないか谷口。 「あは…ありがとうございます、キョンくん」 そういって、笑顔を見せてくれる。 ほら、俺のギャグに乗って良かっただろ。 なあ、そこの半裸の谷ぐ 「って本当に脱いでんじゃねーっ!?」 「いやあ!ボク、半裸でノック受ける気満々っすよおっ!!」 そのままバシッ、バシッとグラブを叩く谷口。 まあ、後は予想通りだ。 後は団長からの、アップ前のアップを受けただけだから。 ※ 「キョン、ちょっと来なさい」 ノックバットを放り投げ、ベンチへ下がってくる。 勿論その先のショート定位置には、半裸の男が倒れている訳だが。 「ポジション考えるから」 「やっと、真面目な話って訳か…」 安心のあまり、溜息が出る。 ハルヒが座った隣に、並んで腰を下ろす。 「ピッチャーはあたし。後は勝手に決めて良いわよ」 すみません、帰って良いですか。 言った瞬間ボコられることは確定しているので、口に出さずに考え始める。 「…キャッチャー長門。ファーストは…朝比奈さんで良いか?セカンドは国木田…」 「ふ~ん…アンタにしちゃ、結構良いセン行ってるんじゃない?」 そう言って、軽く微笑む。 素直に褒められんのか、お前は。 何だかんだで笑ってるハルヒに、俺は苦笑いを返す。 (ほんのちょっとだけ)ハルヒの意見も取り入れ、ポジション、打順共に決まった。 (大丈夫なのか…コレで) まあ、不安は拭えないのだが。 1,古泉一樹(レフト) 2,長門有希(キャッチャー) 3,涼宮ハルヒ(ピッチャー) 4,キョン(センター) 5,鶴屋(サード) 6,谷口(ショート) 7,国木田(セカンド) 8,朝比奈みくる(ファースト) 9,キョン妹(ライト) 「…待て、何でお前が三番?」 「そりゃあ、三番最強説でしょ!」 もしかして、それをやりたいだけで野球始めただけじゃないだろうな。 ※ 各自キャッチボールしたり、雑談したり、半裸で倒れていたりする風景をハルヒと並んで眺める。 これで終わったら、日曜も楽しく終わるんだけどなあ。 「遅いわね…相手チーム」 「そういや…今回は、普通の草野球チームなんだよな?」 当たり前でしょ、と言い切る。 こいつが選んだ相手って、ロクなことが無さそうな気がする。 「谷川ジャイアント・ワークテイカーズって言ってね、隣町の草野球チームなんだけど…」 何か、コメントし難いチーム名だな。 「何か市営のグラウンドを追い出されたらしくてね、土日にここのグラウンド使いたいらしくて」 「はは、何か?俺等が負けたらここを使わせるってか?」 「そうだけど?」 「はは、そりゃ傑作だな…ってちょっと待てーっ!?」 危なく、ノリで流されるところだった。 「勿論、そのことは野球部に話してあるんだろうな…?」 「無いわよ」 ゴメン、今日遠征の野球部の皆。 俺、知らなかったんだ。 「勝てば良いじゃない!」 うわー、簡単に言ってるー。 「あたしが投げて、あたしが打つ…完璧じゃない!」 そういって、前回何点取られたんだこいつ。 流石に、二度はあの手は使えないし。 弱い奴等が、来てくれることを祈るしか―。 「「「お願いっしまあーっす!!」」」 一瞬、時が止まる。 SOS団の、誰もが動けなかった。 その姿は、体育会系デカマッチョそのもの。 勝てる気なんて、全くしない。 「手頃な相手じゃないの!」 そうやって笑えてるの、お前だけだからな。 ※ 「「「………」」」 絶句って、こーゆーことを言うんだろうな。 あまりにも、レベルが違い過ぎる。 グラウンドに声は、無い。 その代わりに、ボールを打つ音と取る音が断続的に聞こえて来る。 ハッキリ言えば、こいつ等は上手い。 内野守備・連携は完璧。更に外野の捕球もカバーもソツは無い。 (マジかよ…) 早速、頭を抱えることになろうとは。 何でこう、楽しい野球が出来ないんだろうか。 黙ってやってたって、楽しくないじゃないか。 誰かが、深い溜息を吐く。 だが、誰もそれを咎めようとはしない。 誰もが、同じ気持ちなのだ。 それを、どう裁こうというのだろうか。 「暗い…暗い…暗あああああーいっ!!」 いたよ、一人だけ。 どうしたって、諦めないヤツが。 「何よっ!あんな声も出てない奴等に負ける気なのっ!?…冗談じゃないわっ!!あんな根暗集団にっ!!」 それは違うんじゃないか、とは誰の弁だろうか。 「いい!?あたし達は声を出していくのっ!!…それこそ、誰かのミスをカバー出来るくらいにね!」 何か、珍しく良いこと言ってるぞ。 「楽しくやって、楽しく勝つ!それがSOS団流よっ!!」 二回目だけどな、野球。 そんなこと行ってる間にも、相手のノックはキャッチャーフライを以って終わりを告げる。静か過ぎる。 「絶対勝つわよっ!!」 「「「おぉーっ!!」」」 乗せられ易いなあ、俺達も。 まあ、やるからには勝つつもりで行くか。 負ける気なんて、もう無かった。 ※ ハルヒの自信満々なジャンケンの結果、こっちは後攻に。 というか、いくらなんでも後攻を選ぶか。 「強い方が、後攻を選ぶものなのよ」 頼むから、その間違った情報と思考を何とかしてくれ。 「いい?先制点は絶対にやらないわよ…やったら、承知しないからね!!」 投げるの、お前だけどな。 そのまま、守備位置に付く。 うーむ、俺センターってのは間違えたかな。 いくら外野の守備固めとはいえ、セカンドより遥かに遠い。 ハッキリ言って、面倒だ。 「キョーン! 守備位置まで走るのよーっ!!」 「…なんでそんなに高校野球基準なんだよっ!!」 その声に、無理矢理足を回す。 全く、嫌になる。 やっぱり、国木田と替わってもらうかな。 ハルヒが許さない気がするけど。 「いっかあーいっ!! 声出してくわよーっ!!」 だから、それキャッチャーの仕事だろ。 まあ、長門が出したら出したらで怖過ぎるんだが。 「プレイッ!!」 主審は相手側、テイカーズの人にやってもらっているらしい。 まあ、あんだけ上手きゃ贔屓することも無いだろうけど。 相手先頭バッターは、ライトの椎名。 見た目は若い、俺達とそう変わらないだろう。 全員そうなのだが、恐らく高校生~大学生の集まりなのだろう。 勿論殆ど経験者なのだから、気を抜く訳にはいかない。 初球、インハイにストレートが決まる。 際どい位置だが、ストライク。一つ儲けたな。 次はアウトローにもう一度ストレート。また際どいがボール。 というか、よく対角に放れるな。 やっぱりアイツ、天才肌かも。 三球目はド真ん中高め、これは椎名がカットしてバットネットに鋭く突き刺さる。 って待て、前に飛んだらセンターに来るじゃないか。 四球目は、さっきと同じコース。 (来る―!?) さっきのスイングなら、ライナーでセンター前。 俺は、脚を動かした。 「―ストライク!バッターアウトォッ!!」 「あっ…!?」 来なかった。 というより、俺が驚いたのはそこじゃない。 今、ハルヒが投げたボールだ。 (…落ちた、のか?) 殆ど、球速は落ちてはいない。 つまり、あの球は。 「―フォークって言うより、SFFか」 SFF(スプリットフィンガーファストボール)。 速く鋭く落ちる、いわば高速フォークだ。 なるほど、面白い試合にはなりそうだ。 ※ 「セカンッ!!」 ハルヒが、叫んだ。 そこにいるのは俺では無く、国木田。 難なく捌きファーストへ送球。 まあ、問題はその後なのだが。 「わっ、わっ、わっ…!!」 危なっかしくキャッチングし、ツーアウト。 もしかして、俺一番ファーストにしちゃいけない人をファーストにしたかもしれない。 だからといって、妹をファーストにしたら半端じゃない送球精度を期待しなくてはならなくなるが。 まあ、とにかく二番セカンドの鈴木をセカンドゴロに打ち取った。 どうやら、前回ファーストだった国木田もそこまでセカンドに違和感は無いようだな。 三番は下條、と言ったか。 同じポジションだから、何となく覚えている。 身長は俺とそこまで変わらないが、如何にも飛ばして来そうな雰囲気を出している。 センターとライトは止めてくれよ。 まず、長門が要求したのはアウトロー。 だがストライクゾーンに入っているのか、下条は振りに来る。 鋭いスイングだったが、空振りボールは長門のミットの中へ。 もしかしたら、ミートは得意じゃないのかもしれないな。 次は、真ん中低目から (SFF―!?) 確かに、ボールになったはずだった。 だが下条はそれを掬い上げ、センターへ打つ抜く。 おい、冗談にならないぞ。 俺は目を切り、とにかく追う。 間に合ったとしても、ギリギリ。 (間に合え―!) 半ば願うように、グラブを上に突き出した。 衝撃。 スリーアウト目は、何とか俺の手で奪うことが出来たようだった。 ※ 「やるじゃない! キョン!!」 走って戻ってきた俺の背中を、ハルヒが叩く。 まあ、完全に偶然だけどな。 「ナイスプレーです、キョンくん!」 「いやあ、大したことじゃないですよ」 まあ、言われて悪い気はしなくは無いですけどね。 こちらの一番は、謎の転校生古泉。 一回、二回とバットを振り左打席へ。 あ、あれ? 「何でアイツ、左打席なワケ?」 「涼宮さんが、『一番レフトなら左打席よっ!』って矯正していましたけど…」 アイツ、また余計なことしやがって。 古泉なら、右打席でもそこそこ打てるってのに。 そして、その初球。 「ってセーフティかよ!?」 「『一番レフトなら、初球セーフティバント』だって涼宮さんが。」 アホだ。全然ルールをわかっちゃいない。 慣れない打席だからかはわからないが、球が強過ぎてサード正面。 それをサードが難無く捌き、ワンナウト。 「……」 本日二回目です、絶句。 誰だよ、ハルヒに間違った日本の野球を教えたヤツは。正岡子規でも恨むか? 「いやあ、難しいものですね…」 お前もそう言って爽やかに戻ってきてるけどな、逆打席でバント出来る方も凄いぞ。 やっぱり、SOS団の恐ろしさを再認識するのであった。 ※ さて、ワンアウトながらバッターは二番長門。 確かに、『バントを決めろ!』とかそういう命令には強そうだけどな。 「有希!気にすることは無いわっ…練習通りに、思いっ切りセンター返しよ!!」 それはそこそこ努力したヤツに言う台詞だ、ハルヒ。 そう思った、瞬間だった。 ストレートを、難無く打ち返してみせたのは。 「は?」 だがピッチャー真正面、体勢を崩しながらも相手ピッチャー肩慣は取ってみせた。 ピッチャーライナー、惜しくもツーアウト目を喫する。 「…野球、難しい」 お前が言うと、とても安っぽく聞こえるのは何でだろうな。 さて、ツーアウトながらはバッターは(本人的には)大本命。 団長である、三番、涼宮ハルヒ。 相手ベンチの声こそ聞こえないが、女子高生であれだけのストレートと変化球を見せたのだ。 当然、上位打線ということもあり警戒してくるだろう。 「さあ! 来なさいっ!!」 だが、そんなことは本人は知らず。 知らんぞ、ビーンボールとか来ても。 だが、確かに一球目はそれに近い球だ。 インハイ、そのまま真っ直ぐ行けば肘に当たる球。 だが、ハルヒはそれを避けようとはしない。 むしろ、そのまま振り切って。 「ハルヒ、危な―」 「えーいっ!!」 気付いた時には、右中間フェンス直撃のツーベース。 盛り上がるベンチに、本人は呑気にVサインなんかを送る。 なるほど、カーブか。 よくわかったな、アイツ。 「キョーン! 絶対あたしを還しなさいよぉーっ!!」 というか、バッター俺かよ。 ※ 二死二塁、バッターは四番。 聞こえは良いけど、俺なんだよな。 「あたしを還さなかったら、どうなると思ってるんでしょうね!?」 大丈夫だ、何となく理解はしている。 認めたくは無いが。 俺には、前の三人のように超人的なスキルは無いからな。 とにかく、一球目は見よう。 長身から振り下ろした腕から、一投目が投じられる。 「ストライークッ!!」 「うおっ…」 速い。 アウトハイへの球だったが、反応し切れなかった。 よく打ってたな、三人とも。 まあ、次はフルスイングするか。 『ホームラン狙ったんだよ!』とか誤魔化せば何とかなるはずだし。 二球目は、構わずフルスイングだ。 フッ、と腕が軽くなるのを感じた。 「打っちまった―!?」 マズイ、セカンドの頭だ。 と思ったが、強いライナーの当りでセカンドも届かない。 見る限りでは、ハルヒは既にサードを回ってる。 よし、先取点だ。 結果オーライと思いつつ、ライトはホームに投げると思うのでそのままファーストベースを蹴る。 が、蹴ったのが間違いだった。 どすっ。 「ごはっ!?」 腹部に、激しい衝撃が走る。 アレだ、何かブローに右ストレートを受けた気分だな。 まあ、アレだよ。 いわゆるボール、ってヤツだろうけど。 ※ 何とか、先取点は手に入れることは成功した。 まあ、四番としては役目を果たしたことになると思う。 だが。 「…ぐはっ」 何か、大切なものを見失った気がする。 ライトからの返球は思った以上にライナー性だったらしく、ファーストを回ったところでランナー、つまり俺に直撃したらしい。 そのまま俺から跳ね返ったボールをセカンドが拾い、もがいている俺にタッチ。アウトとなる。 その前のハルヒはホームを踏んでいた為、とりあえず先取点はゲット。 何か、嬉しくないんだが。 「いっ…一点は一点よ! この一点守るわよっ!!」 俺の為にもな。 だが、二回の裏にそれは起こった。 四番村田に放った第三投目、真ん中よりのインローの球が左中間に運ばれる。 だがレフトの古泉、センターの俺がいれば抜けることは無い。 と、思ったのだが。 そうか、一つだけあったんだ。 柵を越える、という選択肢が。 「オイオイ…骨折り損かよ…」 一対一。 俺の身体を張った一点も、ワンホーマーで同点に返される事態となった。 ※ 何とか五番田口をセンターライナー(低くて危なかった)、六番矢野をサードゴロ(流石鶴屋さん)、七番岸をショートゴロ(ノックの効果は大きかった)に抑え、後続は断つことに成功した。 だが、上位打線が駆使しての一点。 それを、四番の一振りで無に返されたのだ。 そのショックは、隠し切れない。 「んじゃっ、行ってくるっさ!」 だが、この人は意気揚々にバッターボックスへ向かう。 五番、鶴屋さん。何とも、羨ましい限りである。 (助っ人だしな…) まあ、日曜に友達に付き合うってのもなかなか出来ないけどな。 ご苦労様です。 だが、性格ほどバッティングは大らかでは無い。 七球粘った結果、フォアボールを選び出塁。 しっかりと、先頭打者の仕事をこなしていたりする。 「谷口! ここはしっかりと頼むぞ!!」 確かに、谷口はお調子者だ。 だが、ここはしっかり決めてくれる。 「俺、性格程大雑把じゃねーんだぜ?」 いや、それはどうかと思うけどな。 ともあれ、意外にしっかりと仕事をし、送りバントでワンナウト二塁。 さて、ここでバッターは七番の国木田。 二回裏、ワンナウト二塁。 何とかこのチャンス、ものにしたいよなあ。 ※ 「じゃあ、行ってくるよ」 チャンスとか関係無しに、いつもの笑顔でベンチを離れる国木田。 監督も統率者もいない俺達にとって、殆どサインプレイは皆無だ。 国木田がここで、どう出るか。 それは俺達にも、予期せぬことなのだ。 勿論、ここで、 「「「セーフティバント!!」」」 なんてことがあったとしても、俺達には何の報せも無いのだ。 サードが急いで拾い、ファーストへ偽投。 結果としては投げられず、サード内野安打で落ち着くこととなる。 その間に鶴屋さんはベースカバーが送れたサードに滑り込み、ワンナウトながら一三塁。 おお、何か足を使った野球って良いな。 俺のは身体を張った野球だし。 さて、ネクストバッターはと言うと。 「いっ…いってきま~す…」 「「「……」」」 別に、期待してた訳じゃないさ。うん。 ツーストライク目に国木田が二塁を奪うも、三球目で見逃しの三振。 ツーアウト二三塁。 ワンヒット、二点。 「いってくるよ~」 「「「……」」」 皆、知ってるか。 一死二三塁って、二三振で0点なんだぜ。 ※ 三回の表、相手の攻撃は八番鳥谷。 どうやら引っ張りの打者のようだが、古泉の正面を突いてレフトライナー。 九番はピッチャー、肩慣。 草野球では珍しいが、ピッチャーだから九番に据えてるのかもしれないな。 長門も同じことを思ったのか、アウトコースで攻めていく。 が、それは案の定の結果を齎した。 見事にライト方向へ流し、ランナー一塁。 妹のヤツが逸らしたら二塁まで行かれる可能性があるからカバーに入ったものの、その必要は無かったようだ。 まあ、危なっかしいことには変わりないのだが。 さて、打順は一番に返って椎名。 さっきのハルヒの打球への対処から考えても、足はかなり速いだろう。 エンドランは、十分に考えられる。 初球、長門が要求したのはストライクからボールになるSFF。 だが。 「走ったあっ!!」 エンドランじゃない、これは盗塁だ。 長門も偽投はするものの、投げることは出来ない。 まさか、ピッチャーが単独で走りこんでくるとは。 この後椎名がヒッティングするも、ファーストゴロ。 朝比奈さんの肩でランナーが刺せる訳も無く(むしろ捕球出来たのも奇跡に近い)、自分でベースを踏みツーアウト。 またもやツーアウトながら、ランナーは三塁。 互いにピンチもチャンスも、続くものだ。 ※ バッターは二番、鈴木。 一回表はセカンドゴロに倒れたものの、バットコントロールは優れている部類に入るだろう。 長門の要求は対角のボールが多く、確かに鈴木は前に飛ばすことは出来なかった。 ボール。ファール。ファール。ボール。ファール。ファール。 そして、平行カウントからの七球目。 (センター返し―っ!?) ハルヒの右を抜け、俺の方へ。 勝ち越されるのを、確信した。 その時だった。 「うおりゃあーっ!!」 俺は、見た。 そこに、半裸で飛び付いていた男を。 いや、もうジャージだけどね。 だが、ボールは抜けてこない。 取ったのだ、あの男が。 そのまま立ち上がると、ボールをファーストへ送球。スリーアウトとなる。 「半裸ノックの力…ナメるんじゃねーぜ!!」 いや、むしろダメージで取れ無そうだけどな。 まあ、半裸の気合のプレイで点は失わずに済んだ。 さて、次の上位打線で追加点が無けりゃ辛いな。 ※ 折り返し地点も過ぎ、三回裏の攻防へと移る。 打順は功打順、一番古泉からだ。 「古泉くん!?絶対出塁するのよ!!」 お前は何もくれてやるな、本当に。 苦笑いを残し、古泉はバッターボックスへ向かう。 今度は先程とは反対の、右打席だ。 (そらそーだ…) 律儀の入る方も入る方だし。 ハルヒも何にも言ってないし、別にどっちだって良いんだろ。 初球はインハイにストレート。待球に徹したのか、古泉は動かない。 ワンストライクからの一球は、同じコースにカーブ。だが、古泉は動こうとはしない。 (何考えてやがんだ、アイツは…) ツーナッシングからじゃ、まともにストライクを取りに来る方が馬鹿だ。 さっきより真ん中目に、三投目が放られる。 「ストライク―」 から、ボールになるカーブ。 酷く、渇いた音がした。 右方向へ向かう打球は、一二塁間を素早く転がっていく。 セカンドが、飛び付いた。 が、そこまで。 投げることは出来ず、そのまま古泉はファーストベースを駆け抜ける。 SOS団側ベンチは、大いに盛り上がる。 ノーアウトからのランナー。 さあ、試合はここからだな。 「……」 まあ、また俺まで回って来るんだけどな。 ※ 二番は、キャッチャー長門。 ハルヒが細々と耳打ちしているが、おそらく送るんだろう。 だが、聞いてしまった。 決定的な、何かを。 (…私とキョンで返すから、アンタは…) 待て、コラ。 勝手に頭数に含めるなっての。 長門はバッターボックスに入ると、そのままバントの構えをする。 相手バッテリーも想定内だったのだろう、キャッチャーは真ん中にミットを据える。 小さな音と共に、一塁側へとボールは転がっていく。 ワンナウト二塁、スコアリングポジションだ。 バッターは前回ツーベースヒット、(本当は主砲)三番ハルヒがバッターボックスへと向かう。 「さて…と」 さっきの作戦(?)、俺には話さないのかよ。 打つだけですか、スコアリングポジションにランナーがいたら。 渋々、俺もネクストバッターサークルへと向かう。 意気揚々とバッターボックスに入るハルヒだが、バッテリーも気付いているようだ。 ハルヒの、長打の理由を。 「……」 まあ、当然だろうな。 この試合、ハルヒにとっては節目になるかも。 続きがあれば、の話なのだが。 三番バッター、ハルヒに対して相手バッテリーが取った策とは。 (―オール外角攻め) そう。 ハルヒはあくまで、筋力的には殆ど並に近い。 単純な力で言えば、俺や古泉の方が上のはずだしな。 バッティングは、いわゆる引っ張る方向の方が強い打球が行き易く打球が伸びる。 さっきの打球は、あくまでカーブを弾き返したから右中間へ飛んでいっただけなのだ。 だが、カーブより飛び難いストレートで外角攻めならどうなるか。 (……) 運が良くてさっきと同じ打球、または単打。 悪くて、凡打。 (…アイツの中で、凡退って言葉は無いんだろうな) 何かやらかしてくれる、それが涼宮ハルヒ。 直後。 「てえいっ!!」 外角の球を打ち返し、ライトライン際へと転がっていく。 追加点か、と思われたが古泉は三塁でストップ。 流石一番ライト、足は速い。 上手く回り込み、ハルヒの一打も単打に抑えられる。 「にしても…」 都合良過ぎ無いか、この試合。 再びスコアリングポジションにランナーを置き、バッターは四番。 (俺かよ…) 打たないと殺されそうなのは、俺だからだろうか。 ※ スクイズ、外野フライ、ワンヒット。 いずれも、一点に繋がる行為だ。 が、SOS団にサインプレイなど存在しない。 つまり、だ。 (打つだけ…?) ゲッツーとかだったら、俺この世から消えるかもしれない。 とりあえず、初球は再び待球。 三塁にランナーがいるから、変化球は無いと思うけど。 「ストライークッ!!」 この球威、だもんなあ。 一応四番だし、厳しいコースしか狙って来ないだろうし。 厳しいだろ。 二球目は、外角低めのボール。 だが。 (ハルヒのヤツ、走ってる―!?) だが、キャッチャーは投げることが出来ない。 ワンナウト三塁から盗塁を刺そうなんて、殆ど有り得ない話だ。 とにかく、ランナー二三塁。 チャンスってか、ピンチが拡がったな(凡退した時の)。 第三球目は、今度はストライクコースの内角低め。 (振り切れ―!!) 思いっ切り引っ張るつもりで打ったのだが、この球は高々とライトへ。 決して、深いとは言えない。 やっちまった、と思いながらファーストへ走る。 ぱすっ、という音と共にグラブで収まる。 「走ったあっ!!」 だが、ウチの一番はそれだけでは終わらせないらしい。 (古泉っ…!!) ライトが、ファースト・カットマンへと投げる。 だが、ファーストはホームを一見するとセカンド・サードへ偽投。 古泉は、既にホームに滑り込んでいたのだ。 ハルヒは若干の浅さもあり、走ることを躊躇ったらしい。渋々セカンドへ戻る。 「ナイスラン」 「いえ、キョンくんのフライがあってこそですよ」 ハイタッチし、そのまま二人でベンチへ戻った。 これで、殺されることは無くなったかな。 古泉に感謝しよう。 「それじゃ、続いて来るにょろ~」 と、笑顔でベンチを離れる鶴屋さん。相変わらずマイペースな人だ。 が、直後の初球をセンター前へと運ぶ。 ハルヒは一度はサードベースを蹴ったが、センターの巧返球に阻まれホームイン出来ずにストップ。 そして、期待のバッターは。 「っしゃあ! チャンス来たあああーっ!!」 「「「……」」」 三振に100億ペソ。 ※ さて、回は替わり四回表。バッターは三番下條からだ。 「ちょっ…俺の打席は!?」 とりあえず、100億ペソは失わずに済んだ。日本円でいくらかわからんけど。 次はホームランを打った村田、出来ればランナーを出さずにこのバッターを迎えたい。 直後の、第四投目。 「ショートッ!!」 「汚名挽回のチャンス来たあああーっ!!」 返上しろ。 まあ、とにかくボールの正面に入り。 「「「……」」」 白球は、高々と大空へと舞い上がった。 こいつ、マジでファンブルしやがった。 センター寄りだったので俺が捕球し、ベースカバーに入っていた国木田に返球する。 当のエラーした本人は、捕球体勢のまま止まっている。 永遠なんだろうなあ、こいつにとっては。 「良かったな、汚名挽回出来て」 とりあえず、それだけは声を掛けておく。 ダウンの後、谷口だけ更にダウンが待っていそうだ。 さて、ランナー一塁。 再び、ノーアウトで四番村田を迎えることになった。 せめて、単打で抑えたいところだな。 ※ さて、四回の守備は続く。 この試合唯一のホームランを打つ、四番村田。 ランナー一塁で、敬遠は難しい。 ハルヒの性格上、必ず勝負だ。 初球、国木田の頭を越えるライナー。 (マジかよっ…!!) 妹をカバーする為に、俺はライト寄りにいた。 が、それでも遥かに間に合わずフェンス際まで転々と転がっていく。 一塁ランナーはホームに到達し、バッターランナーも悠々に二塁へ。 中継の国木田にボールを渡し、守備位置へと戻る。 (また同点かよ…) 取ったら取り返す、正にシーソーゲーム。 ハルヒのヤツ、機嫌悪いだろうなあ。 と思ったら、マウンドでは見慣れたカチューシャが首を傾げている。 おかしいな、とでも思っているのだろうか。 怒っている、というより不思議がっているような。 そんな感じだ。 試合は進み、五番田口は送りバントをしっかりと決める。 ワンナウトランナー三塁から、六番矢野をサードゴロに仕留める。 これでツーアウト。バッターは七番岸。 ストレートに引っ掛けたのか、打球はふらふらとファースト裏へ。 「えっ…えっ…えぇっ!?」 自動車のように前を向いたまま下がるものの、朝比奈さんは追いつかない。 (落ちた―) と思った瞬間、国木田が回り込んでおりガッチリと掴む。 頼りになるなあ、こいつのセカンドは。 とにかく、同点で四回の裏を迎える。 さあ、踏ん張りどころだな。 ※ 四回裏、バッターは七番国木田から。 今日は活躍しているし、もう一本欲しいところだ。 が、粘った結果の七球目。 掠ったファールは、高々と真上へ。キャッチャーフライだ。 仕方無し、と国木田はベンチに戻って来る。 「頼むぜ、下位がお前しか頼れないんだから…」 「僕だって、10割打てる訳じゃないからね…ちょっと難しいかな?」 「…まあ、そうだけど」 笑顔で言われると、説得力があるな。 さて、次のバッターは朝比奈さん。 せめて、フォアボールで歩いて欲しいのだが。 「キョン」 何か、こいつに久々に話し掛けられた気がする。 そして突き出した手に握られていたものは、試合球と同じボール。 「何だよ…?」 また、変なことを思い付いたんじゃないだろうな。 「あたしに、変化球を教えなさい。抜くタイプのヤツ」 「…はあ?」 四回裏、ワンナウト。 後半戦は、まだまだ波乱が待っている気がする。 ※ 五回表(何故スリーアウトになったのかは察してくれ)、相手の攻撃は八番鳥谷から。 さっきはレフトフライだし、引っ張り打者っぽかったな。 ライト寄りの守備から、定位置くらいまで戻って来る。 「ごかあーいっ! しまって行くわよーっ!!」 ハルヒが毎回と同じように一喝し、守備に入る。 だからそれ、キャッチャーの仕事だって。 一球目は、内角高めにストレート。 だが。 (体勢崩しても引っ張ってくるかっ―!!) 三遊間を抜け、レフト古泉の元まで転がってくる。 またもや、先頭打者を出す結果となった。 『あたしに、変化球を教えなさい。抜くタイプのヤツ』 「……」 まさか、とは思う。 いや、そうじゃないと考えられない。 まさか、とは思う。 その間、九番肩慣が送りバントを決めスコアリングポジションへとランナーを送る。 ワンナウトから、バッターは一番椎名。 三振、送りバントの二つながら振りは鋭い。そして既に対決は三度目。 一本が出ても、おかしくは無い状況だ。 その、一球目。 失投だった。 ド真ん中に入っていったストレートは、見事にハルヒの頭上を越えていく。 ワンバウンドで捕球した俺は、そのまま中継である谷口へと送球する。 ワンナウト、一三塁。 間違い無い。 俺は、タイムを取った。 「なっ…何よっ! 守備位置まで戻りなさいっ!!」 その言葉を無視し、俺はピッチャーマウンドへと向かう。 全く、何で言わないんだ。 いや、何で気付いてやれなかったんだ。 馬鹿同士過ぎる、マジで。 「お前、もう握力が無いんだろ?」 「なっ…!!」 何で、そんなことがわかるのよ。 言いたいことは、わかる。 SFF。 鋭く落ちるこの変化球は、確かに三振も取れるし凡打で打ち取ることも出来る。 だが、それ以上に負担が掛かることは明白だった。 指二本で支えるこの変化球は、プロだって多投は許されない。 必要以上に、握力を使うからだ。 更に言えば、こいつは変化球を一つしか持っていない。 掛かる負担、ストレートへの影響も少なくは無い。 「だから、抜く変化球を―」 「だから何よっ!?早く守備位置まで戻りなさいっ!!」 「…話を聞けっての」 こいつは、負けず嫌いだ。 最悪、四番を抑えなきゃマウンドを降りようとはしない。 だが、ハルヒの握力は殆ど残っていないだろう。 「…失点は許す。だけど、四番は抑えろよ」 「あっ…アンタに許されなくても、失点なんか―」 ハルヒの頭に、手を乗っける。 頼むぜ、団長。 「その後は俺が抑える…だから、それまで頑張れ」 そのまま踵を返すと、俺はセンターまで走っていく。 さあ、試合はこれからだ。 ※ その後の試合は、あまりにも予想通りだった。 二番鈴木をゴロに仕留めるもショートの送球がズレ、朝比奈さんが落としてしまい勝ち越されてしまう。 ワンナウトランナー一二塁。 既に力が無いストレートは、三番下條に再びセンター前へと運ばれる。 俺が懸命のバックホームをするも、二塁ランナーが返り追加点。 4対2。 尚も、ランナー一二塁。 迎えるバッターは、四番村田。 ハルヒのストレートに、再び気迫が篭る。 初球をファールにされるも、振り遅れてファースト側サイドネットに突き刺さる。 一呼吸置き、セットポジションから一球。 内角、際どい高さ。 が、ここはストライク。 偶然ながら、これは大きい。 再び、一呼吸置く。 投げてくる。あのボールを。 セットポジションから、最後の一球。 一瞬だった。 僅かに変化した球は、レフト・センター・ショートの間へ運ばれる。 だが、アイツは叫んだんだ。 「キョン―!!」 「ったく…面倒だっての!」 口ではそう言うしか無い。 あまりにも、際どい位置だった。 でも、俺は約束してしまったんだ。 『後は俺が抑える』 だから、このボールは。 ―誰にも、譲れない― 俺は、非日常なんてこの世に無いと思っていた。 だから俺は、日常に生きることを望んだ。 だけど、それは違うんだ。 それはただ、諦めていただけで。 非日常が無い、と思いたかっただけで。 だから、俺は。 ―ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、わたしのところに来なさい。以上― 純粋なあの言葉に、酷く、憧れたんだ。 そのまま、顔から滑り込む。 野球部のヤツに、聞いたことがある。 ファインプレーって、意外に取れた瞬間の感覚があるって。 あった。 俺の手の中に、その感覚が。 だが、まだプレイは続いている。 見えた。 二塁ランナーが、スタートを切っている姿が。 「国木田っ…!!」 形振りなんて、構ってられない。 そのまま、力の限り二塁へ送球する。 「―チェンジッ!!」 ああ、怒られないで済む。 結局それなのか、と思って苦笑いした。 ※ SOS団のメンツに温かく迎え入れられ、ベンチへと戻って来る。 「よく守ったわね!キョン!!…さっ、反撃するわよっ!!」 お前はそれだけかよ、オイ。 誰の為に身体を張ったと思ってるんだっての。 まあ、バッターは再び一番からで古泉。 前の打席でセンターに弾き返している、十分に期待出来るバッターだ。 「涼宮さんも、感謝しています…自信を持って下さいね、キョンくん」 朝比奈さんのその言葉に、正直ドキリとした。 「えっ…ええ、でも別にアイツの為に飛び付いたワケじゃあ―」 「『後は俺が抑える』…だっけ~?」 そう言って鶴屋さんは楽しそうに、後ろから俺を撫でている。 しまった、内野には筒抜けだったのか。 谷口と国木田は何も言わないが、こちらを見て嫌な笑顔を浮かべている。 俺、一生の不覚。 「アウトッ!!」 そんなことやっている内に、古泉はショートライナーで凡退。ワンナウトとなる。 「こんなピンチでも、楽しそうですね。皆さん」 「そりゃあ楽しいから…な」 嫌味っぽく聞こえる古泉の言葉だったが、ベンチにいた皆が頷いた。 ただ、本当に俺達は楽しかった。 こうやって、普段集まらないメンツで普段やらないことをやるということは。 本当に、楽しいのだ。 「有希っ! 今度こそセンター返しよっ!!」 その言葉に頷く長門は、再び難無く打ち返す。 というか、アイツ手だけで打ってないか。 流石、としか言いようが無いな。 「さあっ! 真打ち登場よっ!!」 三回目だけどな、登場。 それ以前に、お前握力はどうなんだよ。 不安は、拭えない。 ※ 五回裏、ワンナウトランナー一塁。 バッターは三番、ハルヒだ。 だが、重大な問題がある。 (アイツ、握力は…?) だが、意気揚々にハルヒは打席に入る。 何か、普通に打ちそうな雰囲気だな。 が、いつもアイツの思考はわからない。 「おっ…送りバント!?」 打ちたがり目立ちたがり、とにかく唯我独尊な涼宮ハルヒ。 それが、送りバントだって。 「…後は頼んだわよ、キョン」 ネクストに座る俺の肩を、そう言って叩くハルヒ。 「随分期待されてますね、キョンくん」 「まっ…裏切ったら、後が怖いからな」 苦笑いを残し、バットを一振りする。 これで二回目だというのに、慣れたもんだな。 そのまま、打席へと入る。 (期待…か) されたことなんて、中学までは殆ど無かったな。 いい加減で、思い付きで。 日常を、何とか非日常にしようと頑張っていた。 なあ、ハルヒ。 一体俺は、お前の何なんだ。 俺をどう思って、行動してるんだ。 ごすっ。 だが、その考えもそれで途切れることとなる。 まあ、アレだ。 ブロー。 「ぐはっ…!?」 本日二度目は、脇腹を抉るデッドボールだった。 ※ ツーアウト一二塁、フリーで打てる場面で頼れるバッター、鶴屋さん。 だが惜しくもショートが飛び付き、俺が二塁フォースアウト。チェンジとなる。 というか、俺呪われてるんかな。 「…ドンマイ」 長門、何か意味深で怖いぞ。 さて、ベンチからグラブを取りセンターへ。 だが、先客がいた。 「…何やってんだ、ハルヒ」 「アンタこそ、何やってんのよ」 何なんだ、この食い違いは。 「アンタ、マウンドでしょ?」 「…は?」 ちょっと待て、マジで言ってるのか。 「『後は俺が抑える』、って言ったじゃない」 いや、言ったけどさ。 俺が投げて、抑えるって意味なのかよ。 「…センターとピッチャー、交代」 コラ、そこのキャッチャー。 勝手にポジションチェンジを申告するな。 「逃げ場は無い、ってことよ」 ニヤリ、と子悪魔的に笑うハルヒ。 「……」 長門の助け無し、マジでピッチャー。 六回表、バッターは五番から。 助けてくれ。 ※ 「ろっかあーいっ! 守り切るわよーっ!!」 だから、センターがやるなって。 五番はここまで、センターライナーと送りバント。 フリーで打つ場面は二回目だし、様子を見て行った方が良いかもしれない。 長門が出したサインは、外角低め。俺は頷く。 振り被って、一球目。 「ヤベッ!」 引っ掛かった、ワンバウンドしちまう。 が、田口はそれを空振り、長門は長門でそれを難無く捕球する。 「……」 黙って返球するが、逆にそれが怖い。目が笑ってないというか。 だが、これである程度はわかったな。 田口は、ミートするのは得意じゃない。 猿真似のカーブで振らせ、最後は内角球で詰まらせる。 ショートの谷口も難無く捌き、ワンナウトを奪う。 次は、六番矢野。サードゴロ二つだな。 引っ張るのが苦手らしい。内角三つで決まりだ。 が、二つ目に問題があった。 すっぽ抜けた。 ※ 鋭い当たりが、俺の足元を襲う。 「うおっ!?」 それを間一髪避け、ボールはセンター方向へ。 「って避けちゃ駄目だろ!?」 だが、遅かった。 打球の足は速く、そのままセンターへ抜けていく。 はずだった。 「国木田!」 守備の方面では活躍している国木田が、ギリギリのところで捕球する。 その場でくるりと一回転すると、ファーストへ送球した。 「アウトッ!!」 こいつ、本当に初心者なのか。 俺の礼に対して爽やかの笑顔で返すが、裏があるようで怖い。 さて、気を取り直してツーアウト。バッターは七番岸。 二打席とも凡退だが、ショート・ファーストフライと上げているのはわかるのだが的は絞れない。 長門の要求を見る限りでは、三振を取る組み立てだな。 それには同感なのだが、こいつはこいつでこのリードはどこで覚えてきたのだろうか。 まあ、本一冊あれば十分なのだろうが。 初球、外角高めに一投を投じる。 だが、これを初球打ち。ファースト正面への低めのライナーとなる。 「って朝比奈さん!?」 マズイ、一番飛ばしちゃいけないところに飛ばしてしまった。 抜けても良い、避けてくれ。 だがその願いは叶わず、朝比奈さんはその場にしゃがみ込んでしまう。 (だから、危ないって―!!) 急いでベースカバーに走るも、打球に追い付くはずも無く。 打球は、そのまま。 ファーストミットに、収まった。 ※ 「有り得ねえーっ!?」 と思ったが、そのままミットからポロリと零れ落ちる。 俺の足も止まっていたが、バッターランナーの足も止まっている。 俺はそれを急いで拾うと、ファーストベースを踏む。 これにて、スリーアウト。 「ひぃ~…怖い~…」 「……」 この人、無自覚でやってるから怖いよな。 まあ、チェンジだし声を掛けるか。 「朝比奈さ~ん、チェンジですよ~?」 「ひぇっ!?ごっ、ゴメンなさいボールさん!ゴメンなさい!!」 「…スリーアウトっす」 愛らしいが、明らかに間違った反応だな。 「えっ…あっ、キョンくんが取ってくれたんですかっ!?」 「…そーゆーことにしといて下さい」 物理的に不可能とか、考えないのだろうか。 まあ、何にせよスリーアウト。 ※ こっちの攻撃は半裸、谷口。 ヘルメットを被りながら、いそいそと上着を 「だから脱ぐなあああーっ!!」 「フッ…俺の決死の覚悟、見ていてくれ!!」 そのアップ前のアップに傷付いた胸板が、痛々し過ぎるんだが。 相手ピッチャー、引いてるし。 「作戦だっ!!」 嘘付け。 「この打席…全国の女性に捧げますっ!!」 全国の女性は、お前のこと嫌いだけどな。 とにかく六回の裏、ノーアウトからのバッターは六番半裸谷口。 というかアレだよな、自分で半裸キャラ作ってるだろ。 初球、内角ながら高さはド真ん中。 「おっしゃあああーっ!!」 狙い球だったのか、その球をフルスイングする。 が。 がきっ。 「「「……」」」 時は、止まった。 「うっわ…見事なボテボテ…」 ハルヒの冷めた言葉に、ワークテイカーズの面々と俺達の時は動き出す。 確かにボテボテだが、サードが反応し切れていない。 谷口の足も遅くない部類、十分に間に合う。 サードも急いで拾い、手だけでファーストへ送球する。 (ギリギリだ―!!) ファーストは沈んでしまいそうな球を伸びて捕球し、谷口もヘッドスライディングでそれに応える。 「はっ…判定はっ!?」 「…セーフッ!!」 再び、SOS団側のベンチは盛り上がりを見せる。 ノーアウト、一塁。 前回は続かなかったものの、今回は先頭打者を出すことに成功した。 さあ、ここで一気に逆転するしかないな。 「ぎぃやあああーっ!俺の胸板がハートブレイクだあああーっ!!」 「「「……」」」 そらあ、半裸だし。 お前、色々と美味しいよな。 ※ どうやら臨時代走の必要も無いらしく、試合は続行。 七番、守備職人の国木田。 って、お前一日にしてその肩書きを奪ったよな。 お前も谷口と違う意味で、美味しいヤツだ。 初球、内角に良いストレートが決まる。 力押しの場合、国木田に分が悪い。 小細工や隙を突くのは得意かもしれないが、真っ向勝負なら前打席と同じ結果が待っているかもしれない。 そして、二球目。 「走ったぞおっ!!」 谷口、お前何にも考えて無いだろ。 明らかタイミング的に、アウトだろ。 だが、それは国木田にとっては好機。 外せば良い、というピッチャーの心理を突いた見事なバッティング。 外角の外れた球を、見事にセンター前へと運ぶ。 偶然だが、エンドランの成立により谷口は一気にサードへ。 ノーアウト、一三塁。 バッターは、八番朝比奈さん。 「……」 ここは、二者三振の方が好ましいかもしれない。 まあ、ゲッツーでも一点だけど。 「タイム!」 ハルヒがタイムを取り、バッターとランナーを集める。 どう考えても、スクイズの相談をしているようにしか思えないんだけど。 朝比奈さんの背中をドンっと叩いてハルヒがベンチへ下がってくる。 「…スクイズか?」 その言葉に、ハルヒはニヤリと笑う。 「アンタが騙されるくらいなら、相手も騙されてるわね」 何か、ムカつくんだけど。 とにかく、こいつにはこいつなりの何かがあるらしい―。 ※ さて、バッターは八番朝比奈さん。 今日二三振で、ウチの妹と共に下位打線街道をまっしぐらしている。 初球はボール、大きく外して来る。だが朝比奈さんもランナーも動こうとはしない。 (…まさか、ボール四つでフォアボールを狙ってるのか?) スクイズをやるなら、間違いなく朝比奈さんでやる。 妹よりも朝比奈さんは背も高いし、多少外されても何とかなる。 (おいっ、ハルヒ…ファアボール狙ってんなら、間違いだ…!!妹じゃ、掠りもしねえっ…!!) (…? アンタ、何言ってるの?) その言葉、そのままソックリ返すぜ。 じゃあ、こいつは何を狙ったっていうんだ。 大きく外し、三つ目のボールがカウントされる。 ノースリー。明らかにスクイズは無い。 だが他に、朝比奈さんで出来る手とは。 (…思い付かねえ) むしろ、スクイズだって危うい気がして来た。 「ストライークッ!!」 四球目は力が入ったド真ん中、ストレート。 駄目だ、フォアボールはコントロールミスが無い限りは期待が出来ない。 三振。 その言葉が、脳裏を過る。 「ストライク!ツーッ!!」 「キョン、見なさい…これが、あたしの『賭け』よ」 そして、六球目が投じられる。 「何も反応しなかった五球に対して…ピッチャーは、『全力の六球目』を投じられるかしら?」 「…マジかよ」 そこには、三振など無い。 あるのは、スクイズ。 「お前…スリーバントとか、考えねーのか…」 「たまには、こーゆー攻め方も『アリ』じゃない?」 再び、悪戯っぽく微笑む。 こいつには、勝てないなあ。 結局、朝比奈さん決死の六球目スクイズが綺麗に決まる。 谷口が滑り込み、ワンナウト二塁へ。 バッターは九番、妹。 「…こいつは?」 「…行きなさいっ! センター返しーっ!!」 何も期待してないだろ、お前。 とにかく、4対3。 一点差で、六回裏の攻防は続く。 ※ 「お疲れさま、朝比奈さん」 その言葉に、朝比奈さんは涙を浮かべる。 「こっ…怖かったれす~…!!」 そのまま俺に身を預け、泣き始める。 (…困ったな) 且つ、嬉しいな。 ビバ、草野球。 「キョン…どうやら、殺されたいようね…」 「さっ、青春の一ページを刻もうぜ☆」 さっと朝比奈さんを隣に座らせ、試合に集中することにする。 サラバ、ビバ草野球よ。 ※ バッターは九番、妹。 「…頑張るよ」 小さく気合を入れ、妹が打席に入る。 うん、三振で良いや。 さっさと、ベンチに帰って来い。 「アンタ…シスコン?」 「そう思われても良いから、早く帰って来て欲しいんだ…」 国木田のことだから平気だろうが、妹が何を仕出かすかわからん。 頼む、何も起きずに三振してくれ。 「アンタ、激しくネガティブね…」 「妹想い且つ、チーム想いだと言ってくれ」 マジで。 「てりゃっ」 小さな気合と共に、フラフラとファースト裏へと飛んでいく。 うん、ツーアウトだな。 ファーストが目を切って、手を伸ばして。 とーん。 「「「……」」」 ヒットだった。 「…回れーっ! 国木田あーっ!!」 国木田もセカンドに触塁しており、落ちてからスタートを切った。 一点にはならなかったものの、再びワンナウト一三塁。 というか、今のが一点になったら逆に笑える。 さて、ここで一番に戻ってレフト古泉。 ここでもう一点を得て、同点にしたいところ。 ※ 「外野フライで一点…ですか」 似合わない笑顔でフルスイングしながら、打席に入っていく。 アイツ、マジで外野フライを打つつもりなのか。 「まあ、一点取れるなら言うことは無いけど…」 ハルヒもヘルメットを被りながら、バッターボックスに入る古泉を見る。 そして、初球。 「あ」 「「あ、じゃねえーっ!!」」 カーブを引っ掛けたのか、古泉の打球は予想を反して浅めのライトファールフライ。 古泉としては珍しい声と共に、ボールはライトのグラブに収まる。 「走ったあっ!!」 更に言えば、これは予想外だ。 殆ど暴走、国木田がホームに向かって走り込んでいく。 ライトから一本で返ってくるボールに対し、国木田はキャッチャーを避けるように手だけをホームに伸ばす。 クロスプレー。 「セーフッ!!」 暴走と思われたその走塁は、ブロックを押し退け同点のホームインとなる。 これで何とか、古泉の面目も保たれたようだな。 ※ 「ナイスラン!」 ハルヒとハイタッチし、国木田がベンチに戻って来た。 「お疲れさん…ナイス判断だったな」 「あは、ただ走りたかっただけなんだけどね」 「なるほどね、七回は回って来ないもんな~…ってオイ!!」 最後のスコアリングポジションだからって、走り込んだのか。 「まあ、同点になったから良いよね」 と、ニッコリと笑う国木田。 わからん、俺にはこいつがわからん。 俺だったら、間違い無く殺される(俺だから、という噂もある)。 そんなことも露知らず、バッターは二番長門。 ランナーは妹が一塁、ってかさっきので走らなかったのか。 まあ、突発的だったから仕方が無いけど。 初球、外角に外して来る。 長門は反応せず、そのまま見逃した。 そして、キャッチャーはボールを戻した。 ―ファーストに。 「ピックオフだ! 戻れっ!!」 クソ、今まで使って来なかったから気付かなかった。 ピックオフ。 ピークイックと共に使われる牽制の一つで、早い話がキャッチャー牽制。 そのまま妹は困惑気味に、タッチアウト。 まあ、同点にはなったから仕方が無いだろう。 攻防は、最終回へと持ち越される。 ※ 最終回、表。 草野球は七回までなので、この回が最終回となる。 八回の攻防は、八番鳥谷から。 ここまでで鳥谷はレフトフライ・ヒットの二本。 完全な引っ張り打者だ。 外角で引っ掛けさせて、凡退してもらおう。 二つのファールを挟み、三球目の要求は真ん中カーブ。 「バッターアウトォッ!!」 まあ、見事に三振ってことでワンナウト。 九番、肩慣は九回も続投らしい。バッターボックスに立つ。 ライト前と送りバント、とりあえず内角に要求される。 が、そこは難無くカット。 次の要求は、同じコースにカーブ。 (真ん中に入るカーブは、一番駄目な気がするんだが…) まあ、ちょっと外気味に修正して投げてみるか。 二球目を、投じる。 が、見事にセンターに弾き返される。 やっぱ、バッターによってなんだな。 スマン、長門。 一番椎名は、二打席目と同様に送りバントの構え。 長門の要求も、ド真ん中だ。 まあ、アウトを取り損ねない限りは村田までは回らない。 ここは素直に送ってもらって、ツーアウト二塁。 バッターは、二番鈴木。 ※ ここまで鈴木は、エラーでの得点のみ。 だが三振は無いし、フリーで打ってくるこの場面は注意した方が良いのかもしれない。 要求は、アウトハイにボール球。 俺もこれに賛同し、真っ直ぐに放る。 「ボォッ!!」 だが、これは振らない。 やはり上位打線、選球眼は悪くないようだ。 次は、真ん中からボールになるカーブ。 「ボォッ!!」 (…振らない) ここまで振らないと、逆に不気味だ。 長門もそう思ったのか、要求はド真ん中ストレート。 打たれても良い、半ばそんな気持ちで投げ込んだ。 キィンッ。 「しまっ―」 時、既に遅し。 俺の頭上を遥かに越え、センター前に運ばれる。 参ったな、勝ち越し点か。 マウンドで、空を仰ぐ。 「キョン! 退きなさあーいっ!!」 「は―」 がすっ 再び時、既に遅し。 センターからの返球が、俺の頭部を捉えた。 お前、コントロール良過ぎだろ。 テンプルを捉えた、白球は。 曲りなりにも、長門の元へ届いたようだった。 何、本日三回目ですか。 「…ナイスカット」 違うから。 ※ 「うぅっ…」 かなりクラクラするが、とりあえずツーアウト二三塁(俺に直撃してる間に、バッターランナーは二塁まで到達)。 点が入らなかったのが、奇跡とも思える。 バッターは三番、下条。左中辺りが得意コースか。 要求は初球からカーブ、低め一杯か。 (難しい…って) だが、確かに有効なコースであることは間違い無い。 仕方が無い、根性で放るしか無いな。 キィンッ 「「……」」 マジかよ。 狙い通りのコースにはいったが、いかんせん球速が落ちたようだ。 そして、この回二本目のセンター返し。 冗談にならない。 抑えると宣言したはずなのに、三塁ランナーが還り5対4。 再びハルヒの送球を俺がカットし、幸いに二塁ランナーは三塁でストップ。 七回表、ツーアウトランナー一三塁。 バッター、四番村田。 マジかよ。 ※ マウンドへ、内野陣が集まる。 「どうする? …二塁空いてるし、満塁策とか?」 「そーだなあ…五番ノーヒットだし、アリじゃねえか?」 「ん~…そだねえ、ツーアウトだし」 「…駄目だ」 駄目なんだ、それじゃ。 俺は、この四番を抑えなくちゃならない。 抑えなきゃ、俺は約束を破ることになる。 センターで、不機嫌そうにしているアイツとの約束を。 守れなくなるんだ、それじゃ。 「長門、無理を承知で頼む…四番と、勝負させてくれ…!!」 「……」 長門は、首を立てに振らない。 そりゃ、そうだ。 俺がキャッチャーなら、四番は敬遠。 四番との勝負を避けるんじゃなくて、四番と勝負する手立てが無いのだ。 それを承知で、長門にリードを任せる。 それはとても、無責任で。 それはとても、情けないことだった。 「…良いんじゃないの?真っ向勝負!ってのも格好良いよっ!!」 鶴屋さんがバンッ、と勢い良く俺の背を叩く。 痛いっす、マジで。 「まっ…全部お前に任す。 来た球を捌くだけだ」 谷口、お前ワンエラーしてるしな。 国木田と朝比奈さんは笑顔だけ浮かべ、会話には参加しようとはしなかった。 最後に、長門が口を開いた。 「…善処はする」 それだけ行って、キャッチャーボックスに戻っていく。 「…恩に着るぜ」 これが、最後の1/3になると信じて。 ※ 長門の要求は、外角低め。 まあ、これしか無いだろうな。 苦笑いする。 走られても構わない。俺は振り被る。 案の定走られるが、そこは問題じゃない。 「ストライークッ!!」 二三塁になるも、一つ目のストライクを奪うことに成功する。 (後…二つ) ここからは、気力勝負。 真ん中低めから、ボールになるカーブ。 キィンッ。 一度はフェアグラウンドで跳ねるも、ファーストベースよりも遥か手前で切れていく。 (…ツーナッシング) もう、まともなストライクを投げる必要は無い。 後は、もう運に身を委ねるしか無いのだから。 大きく、振り被る。 (―何処にでも、行きやがれっ!!) 全力投球の一球は、真っ直ぐに長門のミットを目指す。 勿論、その一球に立ち向かうものもある。 フルスイング。 背筋が、凍った。 「…ストライクッ! バッタアウトォーッ!!」 三振を奪うことが、こんなに気持ちが良いことだったなんて。 負けているのに、何故だろうか。 この喜びは、隠すことも偽ることも出来なかった。 「…ばーか」 子供のように喜ぶ俺に、誰かがそう言った。 気がするだけ、なのだが。 ※ 俺が欲しかった非日常って、何なんだろう。 俺が飽き飽きしていた日常って、何なんだろう。 いくら考えても、答えなんて出ない。 いつしか俺は、『考えるのを止める』という出口すら失ったのかもしれない。 「ストラーイクッ! バッターアウトォーッ!!」 この回先頭バッター、長門が三振に倒れる。 相手ピッチャー肩慣も1点差、ここを踏ん張らなくては負けてしまう。 だが、悪いな。 (勝つのは…俺達だからな) と、思ったところで考え始める。 何で俺、ここにいるんだろう。 何で俺、野球なんてやってるんだろう。 「……」 勿論、答えなんて無い。 あるのは、涼宮ハルヒという現実だけ。 「キョン!!」 バッターボックス手前、見慣れた黄色いカチューシャが揺れる。 ていうか、そろそろ本名覚えろよ。 「何だよ…」 単刀直入に言おう。 何故、こうなったのか。 説明することは、とても易い。 だが、理解するのはし難い。 何ともまあ、アレな状況な訳だ。 SOS団状況。 「ここであべっくほーむらんとやらを打って、一気にサヨナラよ!!」 「打てるかっ! んなもんっ!!」 全く、最後の最後までお前に連れて来られちまったな。 さあ、頼むぜ団長。 俺はこの非日常を楽しむ、ということに夢中になっていた。 ※ 「ストライークッ!!」 初球、真ん中のストレートを空振り。 やっぱりアイツ、右手に力が入って無いな。 二球目はカーブ、ストライクゾーンから外れていく。 ワンエンドワン、ボールは見えているようだな。 次は低めのストレートがワンバウンドになり、ワンツーとなる。 (頼む…打ってくれ、ハルヒ…!!) ここまで熱くなるのは、どれくらい振りだろうか。 拳を握る手に、汗をかいているのがわかる。 もう一度カーブが来、ボール。 ワンスリー。どう出るか。 「フォアボールッ!!」 出塁。 だが、ハルヒを返したとしても同点。 取らなくてはならない。後二点を。 「キョンくん」 肩越しに、古泉が呼ぶ。 「何故この試合、貴方が活躍しているか…わかりますか?」 「そりゃ、偶然―」 ホントウニ、ソウオモッテルノカ。 グウゼンニモ、ホドガアルンジャナイカ。 ナラ、ホントウノコタエハ。 イッタイ、ナンナンダロウネ。 「―ハルヒか」 「ええ」 古泉は満足そうに、頷く。 「―このフォアボールも、そんな気持ちの表れかもしれませんね」 「…どーゆー意味だ、それ」 「言葉通りの意味…つまり、自分の活躍よりって意味ですよ」 自分が、フォアボールで出塁。 そして、期待している俺がホームランでサヨナラ。 なるほどね、確かに出来レースだ。 「でも、ワンナウトだろ?…ツーアウトの方が、面白いんじゃないか?」 「ふむ…なるほど、確かに」 俺の言葉に対し、古泉は深く考える。 「―ゲッツーの可能性と、涼宮さんの怪我のせい…では無いでしょうか?」 「……」 確かに、そう言われたらどうにもならない。 凡打を打ってしまえば、そこでゲームセット。 中途半端なツーベースを打ったって、ホームでクロスプレーとなってしまう。 なら、俺は。 勝つ為には、ホームランしか無いのか。 「…あなた次第ですよ」 それだけ言い残すと、古泉はベンチへと歩を向ける。 ったく、面倒臭い。 考えるのは、嫌いなんだ。 最初っから、答えは一つしか無い。 「…打てば、誰も文句は言わねえだろ!!」 もう、考えることなんてしない。 目指すのは、勝利だけなんだから。 「なるほど…そういう考え方も、あるんですね」 古泉だけが、ただ頷いていたけれど。 ※ ヘルメットを深く被り直し、バッターボックスへ入る。 ハルヒのことを考えると、盗塁は期待出来ない。 スリーベース以上では無いと、同点は有り得ない。 初球、ストライクゾーンから大きく外れてのボール。 どうやら、相手も気力の域に入っているようだな。 ただ、負ける訳にはいかない。 俺は、負ける訳にはいかないのだから。 二球目は内角低め、外れていると思いきやストライク。ワンエンドワン。 次はストライクから逃げていくカーブだったが、ハーフで止めてボール。 ワンツー。バッティングカウント。 そこから投げてくる球は、外角。 (振り抜け―!!) ギリギリフェアグラウンドを割り、ファールとなる。 平行カウントだ。 「ちょっとキョン!さっさとホームラン打ちなさいよっ!!」 「無茶ゆーなっ!!」 喰らい付いてくのも厳しいっての。 全く、今日一日で色んなことがあったもんだよ。 あの時のメンバーを、また集めたり。 そのメンバーで、シーソーゲームを繰り広げたり。 そして今、そのメンバーの声援を一身に受けたり。 ああ、そうか。 「―こーゆー非日常って、悪くないな」 セットポジション。 ただ、振り抜いた。 (低い―!!) ショートに取られるか、と思われる打球はグラブを掠め左中間を破っていく。 ―同点― 誰もが、そう思っただろう。 違う。 違うんだ。 勝たなくちゃ、意味が無いんだ。 ハルヒが、ホームインする姿を見て。 俺は思った。 ―ああ、行かないと― 外野からの返球なんて、見えてない。 だけど、この声だけはハッキリと聞こえたんだ。 「キョンっ…来なさいっ!!」 その声に導かれるように、俺はサードベースを蹴る。 暴走? 違う。ハルヒが来いっていうなら間に合うんだ。 まだワンナウト? 違う。いつの時代だって続きがあるとは限らない。 なら、俺は。 「―行くしかねえだろっ!!」 ずっと、夢を見ている気がする。 一体、いつから? ああ、あの時か。 こいつと出会った、その日。 あの時から、俺は常に非日常。 そして、今日だって。 きっと俺にとっては、非日常なんだから。 ― ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、わたしのところに来なさい。以上。 ― (そりゃあ…俺も、仲間入りする訳だ…!!) 苦笑い。 「セェーフッ!! ゲェームセェーット!!」 ※ 暗い。 ついで言えば、土臭い。 ああ、何かガキの頃ってよく食ってたよね。土。 いや、意図的じゃないけどさ。 偶然、口ン中入っちゃうの。 で、吐き出せたら運が良いんだけど大抵飲み込んじゃって。 後からウエッ、ってなっちゃう訳だ。 気分的に、そんな感じ。 「よっしゃあああーっ! よくやったあああーっ!!」 強制的に立ち上がらされ、抱き付かれる。 「谷口…マジ、キモイから止めろ…」 まあ、よく覚えて無いが逆転のホームインは出来たみたいだな。 一応、ランニングホームランだから予告通りには記録されそうだ。 「キョンくん! 凄く格好良かったですよっ!!」 ああ、ちょっと目が潤んでる朝比奈さんが愛しい。 「…朝比奈さんの為にホームインしました」 本当は違うけど。 「ボロ雑巾みたいになってる割に、口は随分達者ね…」 「はっ…ハルヒ…」 物凄く、嫌な予感がした。 「…明日買い物に付き合いなさい。それで許してあげるわ」 当然、荷物持ちなんだろうけどな。 的中したような、しなかったような。 ※ 「「「ありがとうございましたあーっ!!」」」 終わった。 長い、長い一日が。 「…まだ、一時か」 そりゃ、あんだけ朝早ければなあ。 朝からやる必要、あったのか。 とりあえず、疲れたからベンチに腰を掛ける。 これは俺だけが与えられた特権であり、残りの面々はグラウンド整備に入る。 ハルヒは『んなもん、野球部に任せなさいよ』と言っていたが、相手が頑なにやると言うのでやることに。 今回だけは、ハルヒに賛成。 「おい、アンタ」 相手ベンチより、長身の男。 「…四番の、村田?」 「そうだが…アンタ、リリーフしたピッチャーだろう?」 そうだけど、と短く返事をする。 「単刀直入に言う…アンタと涼宮って女が最後に投げた球、同じ球だよな?」 最後に投げた、球。 俺が三振を取った球と、ハルヒがセンターフライに打ち取ったあの球か。 「ああ、そうだけど」 あの時俺が投げた球は、ストレートじゃない。 確かに、変化球なのだ。 「あの球は、一体…」 まあ、本当は凄く一般的な球なのだ。 ただ、俺とハルヒが一回ずつしか投げなかったから魔球のように見えるだけで。 ただの、変化球なのだ。 「… 魔球SOS 、ってことにしといてくれ」 俺とハルヒだけの秘密、ってのも悪くないな。 そう思ってしまった俺は、負け組だと思う。 ※ 「終わった~…」 まあ、俺は整備してないけど言いたくなってしまうのが人間の性。 勿論、それをハルヒに咎められるのだが(自分で良いって言ったのに)。 「それじゃ、準備するわよ」 やっとか、と思い荷物を背負う。 「? …何やってるの?」 「いや…お前こそ、何やってんだよ?」 ・ 俺達 → 帰り支度。 ・ ハルヒ → ヘルメット着用 「何…って、二試合目の準備だけど?」 「 「 「 「 「 「 「 「 は あ っ ! ? 」 」 」 」 」 」 」 」 もしかして、ダブルで試合組んでる、ってヤツですか。 「あ、次先攻だから宜しくね」 いや、んなことは気にしてないけど。 「やれやれ…仕方がありません、やりますか」 そう言って、ヘルメットを被る古泉。 「まっ…マジかよ…」 俺帰って、寝ようと思ってたのに。 「ホラ!二試合目も勝つわよ!!…次勝たないと、グラウンド持ってかれるんだから!!」 マジでゴメン、野球部。 「SOS団…二試合目も、気合入れて行くわよーっ!!」 土曜の午後は、まだ始まったばかりだった。 涼宮ハルヒの退屈Ⅱ -fin- ■あとがきっぽいもの■ 久し振りに覗いてみたら、自分の作品が載っていてビックリです…まとめて下さった方、ありがとうございました。 後先考えず、スコアだけ考えて書き始めたこのSSですが…表向きには良い感想を頂けて、とても感謝しております。 本当は今更なのですが、不特定多数の方々へ、なのでここに書かせて頂きます。 今はあまり文章を書いておりませんが、身の回りが落ち着いたらまた書かせて頂きたいな…と思っております。 それでは、当時お付き合いして下さった方々、新たに読んで下さった方々…本当に、ありがとうございました。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3921.html
三 章 そんなこんなで、とりあえず会社という体裁は整った。作る人、売る人がちゃんと働けば会社は回る。だがSOS団にひとつだけ足りないものがあった。 「あー、みくるちゃんに会いたいわ。帰ってこないもんかしらね」 このところ、これがハルヒの口癖だった。これだけタイムマシン開発を豪語しているのだから、朝比奈さんからなんらかの接触があってもよさそうなものなのに。朝比奈さんはあれから未来に帰ってしまい、それからは音沙汰がない。たまにひょっこり帰ってくることもあるのだが。ハルヒへの説明ではスイスの大学院に留学していることになっている。 「こんにちわ、株式会社SOS団はこちらでしょうか」 ドアが開いた。来客も珍しく、誰がやってきたのかと全員がそっちを見た。 「みくるです。その節はどうも~」 会いたい願望が通じたらしい。さすがハルヒである。こいつにかかれば時間を越えようが空間を越えようが、逃げ切れるものではないな。 「これはこれは朝比奈さんじゃないですか。お久しぶりですね」 「キョンくん、みなさんもお久しぶり」 「……」 「あら、みくるちゃん。帰ってたんだ」 「お元気そうでなによりです」 「もう、ずっとずっと会いたかったわよ~」 ハルヒはひとまわりグラマーな体つきになった朝比奈さんに抱きついた。朝比奈さんは困った顔をして笑った。朝比奈さんの風体は、俺が知っている朝比奈さん(大)と同じタイトスカートと白のブラウスだった。左腕に金色のブレスレットもしている。もしかしたらあのときの朝比奈さんなのだろうか。 「どう?チューリヒ大学は。いい男捕まえた?」 「やだ涼宮さん、そんなことしませんよぅ」 「赤くなってるところを見ると、いい獲物がいたようね」 「ちがいますってばぁ」 未来に帰っても朝比奈さんは朝比奈さんだ。照れて頬が染まるところとか、そのままだな。 スイスのお土産です、と小さな包みをくれた。俺が開けてもいいですかと言い終わらないうちにハルヒが早々と中身を検めている。 「キョン見て見て、金塊よ金塊。スイスゴールドよ!」 「ほんとかオイ」 「やだ、それチョコレートですよ」 なるほど、スイスといえば金塊チョコか。にしても、わざわざアリバイ作りのためにこんな高価なものまで、と苦笑めいた俺の表情を見てか、 「あら、ほんとにスイスにいるんですよ今」と俺だけに聞こえるように言った。 「えっそうなんですか」 「スイスのある研究所で働いてるの」 「へー。やっぱ時間関係ですか」 「スイスだけにね、ってちがうちがう」 手をぶんぶんと振る朝比奈さんのノリツッコミはかわいい。 「あとでちょっと話せます?」 俺は腕時計をさして尋ねた。 「ええ、時間は大丈夫です」 ハルヒたちがチョコを食ってる最中に抜け出して、俺と朝比奈さんは喫茶店に入った。 「ハルヒが今度は、タイムマシンを作ると言い出したんですよ」 「ええ。詳しくは言えないけど、わたしはそのために来たんです」 「ひょっとして、ハルヒがタイムマシンを作るのは既定事項なんですか」 「いいえ。涼宮さんは時間移動技術のはじまりに関わってる人の知り合いっていうだけで、開発に直接的には関わってないはずなんです」 「もし完成でもしたら、どうなります?」 「我々はそれを懸念しているんです。そんなことになったら時間移動技術に支えられている既定事項が崩れてしまうから」 「というと?」 「タイムマシンが完成する前にタイムマシンが完成したら、既定の歴史が混乱するの」 「ややこしいですね。あきらめさせたほうがいいですか」 「そうとも言えないの。涼宮さんの存在は時間移動技術に深く関係があるの。本人自身は関わらないけど、事が始まるための最初のポイント、と言えば分かってもらえるかしら」 「つまりハルヒがタイムマシン開発のスタート地点ということですか」 「そういうことね」 「朝比奈さんの役割は何なんです?」 「涼宮さんと、この会社の監視。時間移動の実験はいろいろと危険が伴うの。時空震もそのひとつだけど、そのための監視ね」 「ということは、しばらくこの時代にいるわけですか」 「そういうことになります。しばらくお世話になると思うけど、よろしくお願いしますね」 「もっちろんですとも」 俺は俄然やる気が出てきた。また朝比奈さんと一緒に過ごせる日々が訪れたんだ。 「いくつか質問していいですか」 「教えられることなら、どうぞ」 「ええと、あなたは高校時代の俺に会った朝比奈さんなんでしょうか。つまり、白雪姫の話をしてくれた?」 「あれはわたし。すべて終えてからここに来たの」 「それと、あなたの本当の歳は……教えてもらえないんでしょうね」 朝比奈さんは人差し指を立ててウインクした。 「禁則事項です」 相変わらず、この人の笑顔は男をときめかせる。 「忘れてました。朝比奈さん、いつだったか車に轢かれそうになった少年を助けたことがありましたよね」 「え、ええ」 「あの子とこの会社のつながりはあるんでしょうか」 「ええと、この会社自体が既定事項にないことなので本来は関係ないはずなんです」 「というと、今後つながりがある可能性も出てくるわけですか」 「なんとも言えないの。禁則事項ではなくて、わたしにはそういう未来は見えないから」 「というと?」 「歴史というのはいくつかの既定事項が重なって出来ているの。だからこの会社がどういう既定事項をたどるかで別の未来になってしまうの。別の道を進み始めた歴史はわたしには見えない」 相変わらず時間というのは難しいようですね。 「その少年の様子を見に行ってみませんか。あれから音沙汰ありませんし」 「わたしも気にはなっていましたから、行ってみましょうか」 ハルヒには営業に行くと言い残して、二人で電車に乗って祝川駅まで出かけた。ハカセくんの家はハルヒの実家の近くらしいんだが、俺はどの番地なのかまでは知らない。先を歩いていく朝比奈さんは知ってるようだ。 あのとき敵対するグループとやらに誘拐拉致までされたにもかかわらず、朝比奈さん(大)は俺たちがなにをやっているのか教えてはくれなかった。川べりからカメを投げ込んだ様子はどう考えても時間移動に関係のあることらしい。すべてが明らかになる日には、朝比奈さんの所属する時間移動の組織が生まれていて、それはずっと未来の話だろう。 俺と朝比奈さんは東中学校の校区をうろうろ歩き、番地を確かめつつ住宅街をあちこちさまよった挙句、それらしき家にたどり着いた。 「朝比奈さん、いきなり尋ねちゃっても大丈夫でしょうか。怪しまれませんか」 「それもそうですね。こっそり様子見るだけにしましょうか」 二人で隣の家の壁に隠れて人の気配をうかがった。金融公庫と銀行の三十年ローンで買えそうな、ありきたりな一戸建てだ。 「誰もいませんね。住所は確かにここですか」 「ええ、記録ではそうなっています」 その場で十五分ほど見張っていたが、誰の出入りもない。二階の窓のカーテンは閉まったままだ。一階の掃き出しの窓は生垣の向こうでよく見えない。犬は飼っていないようだし、ちょっと忍び込んでみるか、なんて法に抵触しそうなことを考えていると、「あの、どちらさまでしょうか」突然背中から呼びかけられて俺と朝比奈さんはビクと飛び上がった。 「あの、いえ、なんでもないんですっ」 空き巣に入る算段をしているところを見つけられた泥棒になった気分だ。 「あ、もしかしてウサギのお姉さんですか?」 ずっと前に見た面影のある、少年と呼ぶにはやや歳を食っているかもしれない眼鏡の少年がそこにいた。ハカセくんだった。 「ハカセくん?だいぶ前に祝川公園でカメを渡した」 名前を知らないので俺たちの通称で呼んでみたのだが、少年は特に違和感のない表情をしていた。 「そうです。僕のあだ名ご存知なんですね」 ハカセくんは笑った。昭和の某漫画じゃあるまいに、いまどきハカセくんをあだ名につける子供もいないだろう。俺と同じく親戚の叔母さんか爺さんにでもつけられたのだろうか。 「ここじゃなんですし、ちょっと上がりませんか。今学校から帰ってきたところなんです」 「その制服、北高?」 「ええ、そうです。もしかしてOBの先輩ですか?」 「まあそうだ」 俺たちの後輩にハカセくんがいたなんて知らなかった。二人はハカセくんの案内で家の中に入った。ふつーにありそうな一般的庶民の雰囲気だ。調度品やら家具は俺んちの居間に似てなくもない。当たり前だがタイムマシンもなかった。 「ということは今受験生?」朝比奈さんが訊いた。 「ええ、そうです」 「どこを志望してるの?」 「いちおう、ここから通える国立なんですが」 ハカセくんは少しはにかんで答えた。へー、それはまた奇遇だね。俺は朝比奈さんを見た。 「これは偶然ではないですよね」 「どうかしら……」 朝比奈さんは考え込んでいるようだった。 「なにが偶然なんです?」 「俺はその大学のOBなんだ」 「そうだったんですか。もしかして涼宮姉さんもですか?」 「そうそう。ハルヒもだ」 あと宇宙人と超能力者もそうだが。 「ハカセくん、どこの学部なの?」 「いちおう物理学で素粒子物理を専攻したいと考えてるんですが」 朝比奈さんの耳がピクと動いた。 「あの、ヘンなこと聞いていいかしら。もしかして宇宙論とか時間論とか時間平面……じゃなくて時空構造論とかかしら」 「詳しくは知りませんが、たぶんそっちにも繋がるんじゃないかと思います」 朝比奈さんは腕組みをしてうーんと考え込んでいた。ハカセくんがお茶かなにかを用意しにキッチンへ引っ込んだところで、耳打ちした。 「朝比奈さん、どうかしましたか」 「あの、わたしが彼と話をしていること自体問題あるのかもしれないけど、この子が時間移動技術に関わるのは間違えようのない事実なの。でもこんなに早くから関わっていたとは思わなかったわ」 「ということは時間移動技術を知っている朝比奈さんが開発に関わってしまうということですか?」 「そこが問題なの。そういう歴史は知らないし、知らされてもいないの」 しばらく考えていた二人は、納得できるひとつの妥当な答えにたどり着いた。 「これはハルヒじゃないですか」 「もう、それしか考えられないわ」 「この際だから、ハカセくんをハルヒに引き合わせてみませんか」 「え、でもそれは……」 それはどういう結果を招くのか分からない、と確かに俺も思う。 「元々ハルヒが勉強を教えていたみたいですし」 「うーん……。こんな歴史はないはずなんだけど」 未来と通信しているらしき仕草をしていたが、困った表情で唸るばかりだった。未来にいる時間移動管理のお役人とやらも前例がないことへの対応を苦慮してるんだろう。 「最近会っていないんですが涼宮姉さんは元気ですか」 ハカセくんがお茶と羊羹をお盆に載せて戻ってきた。 「ああ、元気元気。もう元気すぎて空回りしてるよ」 俺は渋いお茶をすすりながら苦笑して言った。 「いいですね。あの人にはなにかしら人を巻き込んでしまう台風みたいな不思議なエネルギーを感じます」 俺はその台風と七年も付き合わされてるんだけどね、えへへ。 俺はまだ意見を決めかねている朝比奈さんの様子を伺いながら、フライングを切った。 「そのハルヒなんだが、会社を作ったんだ。ハカセくん、よかったらうちでバイトしないか」 案の定、朝比奈さんが目を丸くして止めようとした。 「キョンくん、そんなこと言って大丈夫なの!?」 「ええ。ちょうど人手も足りなかったことですし、物理学に多少なりとも覚えのある人が欲しかったんですよ」 「いいですけど、どんな仕事なんですか」ハカセくんはちょっとだけ考えて答えた。 俺はできるだけ目を泳がせないように、ハカセくんを正視して言った。 「タイムマシン、を、作る」 ほとんど棒読みだった。その場の空気が摂氏四度くらいに急速降下して凍りついた。俺ってハルヒと付き合ってきて人との話し方を忘れてしまったんじゃないか。 「それ本気ですか?」 「本気も本気、猿並みに本気」 「いいですけど」 ボソリと呟いたハカセくんの目がキラキラしているのは気のせいだろうか。この目、誰かのに似てないか。 「どうやって作るおつもりですか」 「それもまだこれから考えるんだ」 「なるほど……」 「ハカセくんもなにかと物入りだろう。遊びに来てくれるだけでいいから時給出すよ」 「それは嬉しいお誘いですが、毎日は通えません。学校やら塾やらでいつも帰りが遅いですから」 「どうだろう、ハルヒが受験勉強の手伝いをするというのは」 「それなら助かります。たぶんうちの親も承諾するでしょう」 こういうとき、こっちの都合のいいように事を運ぶ知恵が働くのは俺の得意とするところだ。 「じゃあ、二三日中にハルヒから連絡入れさせるから」 「分かりました。よろしくお願いします」 ハカセくんがぺこりと頭を下げた。素直でいい子だよな。こういう貴重な人材は早めに確保しといたほうがいい。 俺たちはお茶のお礼を言ってハカセくんの家を後にした。 「俺思うんですけど、朝比奈さんが知らない未来ってことはまだ既定事項じゃないってことですよね」 「そう、だと思うけど」 「ということは、ここからの未来は当事者が作ってもいいんじゃないですか」 「そうね。そうかもしれないわね」 まだ合点が行かないように考え込む朝比奈さんは、たぶん歴史の保全ばかりを気にしていて、自らが作る歴史というのに不安があるんじゃないかと俺は思った。あなたは自分で自分の歴史を作るつもりはないんでしょうか、と尋ねるには俺はまだ若すぎるが。 「じゃあ、わたしはここで」 「俺は一度会社に戻ります」 「また明日ね」 朝比奈さんは右手をにぎにぎして言った。振り返るともういなかった。もしかして未来と現在を日帰りしてんのかな。 会社に戻ったときには六時を過ぎていた。ハルヒと古泉はいなかった。 「待ってたのか長門、すまんな。帰りに晩飯おごるよ」 「……乙、あり」 「ハルヒが昔家庭教師をしてやっていたやつで、今高校三年生の子がいてな。そいつに会った」 「……知っている。未来からの干渉で交通事故を装った殺人に巻き込まれそうになった」 「知ってたのか。あの子をバイトに雇おうと思うんだ」 「……そう」 長門はあらかじめ知っていたという感じで、頭を七度くらい傾けてうなずいた。 「あの子、長門のいた学部を志望してるらしいんだが。もしかして予定の行動?」 長門は何も答えず、ただ微笑らしきものを浮かべただけだった。こいつのことだ、すべて知っていたに違いない。ハルヒが会社を作るとわめき始めるのも、タイムマシンを作ると豪語するのも。 「……知っていたわけではなく、予測と誘致」 「なるほど。じゃあハルヒがタイムマシンを作ることに関しちゃそれほど懸念はないんだ?」 「……阻止するより、コントロールするほうが望ましい」 ハルヒの監視を続けて十年、長門はついに悟りを開いたようだ。 翌朝、ハルヒ社長から重大な発表があった。 「みんな、いい知らせよ。みくるちゃんが非常勤務でうちの会社を手伝ってくれることになったわ」 「それは素晴らしい。またあの頃のように五人で賑やかにやりましょう」 古泉が喜んでいた。あの頃みたいな非日常的騒動の毎日はごめんだぞ。 「さあっ、みくるちゃん。あなたのために衣装を用意したのよ。さっそく着替えて」 ハルヒはフリルの付いたドレスを取り出した。朝比奈さんのために新調したようだ。俺と古泉は、またあのコスプレを見られるのかとワクワクしていた。ところが朝比奈さんは顔を縦には振らなかった。 「それはいやです」 「えー、せっかく買ってきたのに。ちゃんとサイズも合わせてるのよ」 「だめです。わたしはもう涼宮さんの着せ替え人形ではないの」 ハルヒが唖然とした。はじめて見せる、ハルヒに対する朝比奈さんの頑とした態度だった。睨まれたハルヒはたじたじとなった。 「ねえ、お願い。あたしじゃ似合わないのよね」 「いや、です」 朝比奈さんは腕組みをして譲らなかった。 「困ったわ……」 ハルヒは用意した衣装を持ったまま、どう取り繕えばいいのか分からず俺たちに視線をさまよわせた。よくぞ言った朝比奈さん。今まで朝比奈さんを散々おもちゃにしてきたから、ハルヒにはちょうどいいクスリなのだ。俺にはちょっと残念だったけど。 「……わたしが、着る」 それまで黙ってパソコンのモニタに向かっていた長門が、ぼそりと言った。 「そ、そう?有希が着てくれるの?」 もう、この際誰でもいいという感じでハルヒは渡りの船に乗った。 「……貸して」 長門はハルヒの手から衣装を受け取り、会議室のドアを閉めた。 「有希、手伝おうか?背中ちゃんと締められる?」ハルヒがドア越しに尋ねた。 「……いい。やれる」 しばらくごそごそと衣擦れの音が聞こえていたが、やがてドアが開いた。アリス系ロリータのエプロンドレスに身を包んだ長門が現れた。それを見た四人が、ほぅ!まぁ!これは!と感嘆の声を漏らした。小柄な長門にはボリュームのあるドレスが似合う。似合いすぎている。朝比奈さんとは別の意味でいい。朝比奈さんとはサイズも体型も違うはずだが、分子情報操作とかで裁縫か。 「ピンクが栄えていますね。今までこういう衣装を着た長門さんを見られなかったのが、もったいないくらいです」 「なぜ今まで気が付かなかったのかしら。有希、すっごく似合うわ。ほら、ヘアバンドしてみて」 そう、ロリータファッションと言えばヘアバンドだ。 「……どう」 ヘアバンドを髪に巻いてあごのところで小さく結んで、俺を見た。微笑っぽいものが浮かんでいるところを見ると本人も気に入ってるようだ。俺はにっこり笑って親指を付きたてた。 「長門、似合ってるぞ」 「な、長門さん、似合ってますよ……」 気のせいかもしれんが、朝比奈さんの口数が減っている。もしかして役柄を取られて後悔してるんじゃありませんか。 「部長氏、ちょっといいものを見せたいんだけど」 俺は内線をかけて、長門の親衛隊を自称する開発部の連中を呼んだ。 「おおおお」 ドアを開けるなり部長氏以下五名の感嘆のコーラスが響いた。 「スバラシイ。とてもよくお似合いです、副社長」 もう長門の元にひれ伏して靴にキスでもしそうな勢いだ。 「……そう」 長門がちょっとだけ微笑んだ。これ、来客のときも着てくれると営業効果あるかもな。長門にはなにかこう、特殊な部類の人種を惹き付けるオーラのようなものがあって、黙っていてもそいつらが寄ってくる。俺もそのうちのひとりなわけだが。 そのようなわけで我が社のマスコット的コスプレイヤーはしばらくの間、長門ということになりそうだ。 「そういえばハルヒ、お前高校の頃家庭教師やってたろう」 「突然なによ。まあ、やってたけど」 「あのときの男の子はどうしてるんだ?」 「さあ……もう高校生くらいなんじゃないの?」 「あの子をアルバイトに雇ってもらいたいんだが」 「いいけど、バイトなんか必要なの?」 言っとくが開発部の連中はマンパワーぎりぎりで、いつでも人を欲しがってるんだぜ。 「タイムマシンに興味があるらしいんだが」 この単純な社長を動かすにはこれだけで十分だった。 「へー、そうなんだ」 「今年受験生で物理学部を受けるらしい」 「そうね、人材にも投資しないとね。昔の人はいいこと言ったわ。腐ったリンゴをつかみたくなければ、木からもぎ取ればいいのよ」 それってなにか、俺は腐ったリンゴか。 ハルヒは自宅に電話をかけ、ハカセくんの家の電話番号を聞き出しているようだった。再度かけなおし、ハカセくんを呼び出していた。 「今週中に来てくれるって」 「そりゃよかった」 「あんた、ほんとにタイムマシンなんか作れると思ってんの?」 「お前が言い出したことだろ」 「あたしは過去に行ってみたいだけよ。タイムマシンの仕組みなんか知ったこっちゃないわ」 この人はいつもこれだからな。 「まあなんとかなるんじゃないか?科学技術は日進月歩爆走してんだろ」 「あたしが今から開発をはじめて、孫の孫くらいに完成すればいいくらいに思ってるだけよ。そしたらどの時代にでも連れて行ってくれそうじゃない」 未来への投資か。自分の手でなんでもやってやるという、いつものこいつらしくないな。こいつの願望を実現する能力がなけりゃ、とても今世紀中の完成は無理だろう。 「創始者のお前がそんなこっちゃできるもんもできなくなるぞ。もっと自分を信じろ。やればできる、成せば成る。心頭滅却すれば火もまた涼し、じゃなくて、石の上にも三年、じゃなくて、我田引水じゃなくてええとなんだ」 「それを言うなら、千里の道も一歩からでしょ」 「そうそう、それだ」 いまいちぱっとしないよなあ。やっぱ古泉のいうとおり、ハルヒの活力やら突拍子思いつきエネルギーやらが薄まっちまってる。ここはひとつ、まわりが盛り上げてやる必要があるかもな。 「実は俺も時間旅行が好きなんだ」 「へー、そうだったの。初耳だわ」 朝比奈さんと目の回るような時間移動を何度も経験している俺がいうんだから、嘘じゃない。たまに吐きそうになるくらい好きだ。 「どの時代に行くんだ?」 「完成したらの話よ」 「じゃあ完成したらいつの時代に行くんだ?」 「そうね。十年前ぐらいがいいわ」 「十年前ってーと中学生くらいか。自分にでも会いに行くのか」 「自分に会ってもしょうがないでしょ。ちょっと会いたい人がいるのよ」 十年前……?死んだ爺さんか婆さんにでも会うのか。 「勝手に殺すんじゃないわよ。まだピンピンしてるわ」 「じゃあ完成したらみんなで行こうぜ。俺は自分に小遣いでもやりたいぜ。あの頃はバイトもできなくて貧乏だったからな」 「そうね。それもいいかもね」 ハルヒは頬杖をついてぼんやりと遠くを見ていた。こいつのメランコリーの原因はどうやら過去にあるようだ。 次の日ハカセくんがやってきた。学校の帰りにハルヒに捕まったらしい。 「期待の新人、ハカセくんを連れてきたわよ」 「あ、先輩こないだはどうも」 ハカセくんに先輩呼ばわりされちまってるぜ俺。 「よう、来たな。こっちが古泉、こっちが長門だ。長門はハカセくんが志望する専攻の研究室にいる」 「ほんとですか、よろしくおねがいします」 「……長門有希」 「ようこそハカセさん、なにもないところですが。今お茶を入れます」 「ありがとうございます」 丁寧に腰を四十五度に曲げてあいさつをするハカセくんだった。今日は朝比奈さんが来ていないので古泉がお茶当番だ。 「あれからいろいろと調べてみました」 「なにを?」 「タイムマシンに使えそうな技術です」 この子はピザの宅配並みに気が早いというか。 「すごいわねハカセくん。将来はノーベル科学賞ね」 「涼宮姉さん、気が早すぎますよ。まだ勉強しはじめたばかりです」 ハカセくんはてへへと照れた笑いを浮かべた。 「ハカセくん、本を買ったら領収書もらっておいてね。会社の経費で清算してあげるから」 それより図書カードを渡しといたほうがいいんじゃないか。いくら清算してやるといっても財布に限界があるだろう。あとで経費で商品券でも仕入れとくか。 「ほかになにかいるものは?」 「ええと、とくにないと思います。今のところは」 「そうだ、白衣が必要だわ」 「白衣ってまさかナースか」 「バカね、実験着の白衣よ」 ああ、科学者が着てるやつね。長門にナース服を着ろというのかと思った。それはそれで見てみたい気もするが。 「……これ、読んで」 長門が分厚い本をハカセくんに差し出した。前に見たようなシーンだな。 「量子論ですか?」 「……そう。それからこれも」 「量子力学ですか」 長門の抱えた本は古びて表紙の文字が薄く消えてしまっていた。これ見覚えがあるんだが、もしかしてかつて文芸部部室にあったやつじゃ。 「ちょっと僕にはまだ難しいです。高校の物理程度のことしか……」 パラパラとページをめくるハカセくんは苦笑いしていた。 「……大丈夫。わたしが教える」 まあ長門と庶民的高校生じゃ知識の差がありすぎるが。いい教師にはなるだろう。 ハカセくんはハルヒの尽力(もとい圧力)によって今通っている塾をやめ、大学受験のための勉強をハルヒに、さらにタイムマシン開発のための勉強を長門に教わることになった。勉強を教えてもらってしかもバイト代が出るってのもエサで釣ってるようでアレだが、まあ本人が喜んでいるのでいいとしよう。 【仮説1】その1へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/67.html
人物画像 基本情報 性格・容姿愛称 正体 能力閉鎖空間 時空改変能力 ループ現象 神人 情報爆発 時間震動 超能力者の発生 分裂 その他消失涼宮ハルヒ 渡橋泰水(わたはしやすみ) 超勇者ハルヒ 涼宮ハルヒ(スーパーSOS大戦) 偽涼宮ハルヒ その他(対極関係者) 脚注 関連記事 関連人物 人物画像 基本情報 声優は平野綾。 本作のメインヒロイン。県立北高校1年5組(第9巻『分裂』より2年5組)の女子生徒であり、SOS団団長。 キョンと同じクラスで、キョンのすぐ後ろの席に座る(何回席替えをしても、ハルヒの能力のためか位置関係は不変)。 学業の成績は学年上位に位置しており、身体能力も高く入学当初はどの運動部からも熱心に勧誘されていたほど。 また料理、楽器演奏、歌唱など多彩な才能を持っており、キョン曰く「性格以外は欠点は無い」。 東中時代は変人だと露呈していたが美少女ゆえに多くの男子に告白されて必ずOKしていたが、相手が「普通の人間」であることを理由にことごとく振っていた。 自分の都合のいい言葉しか耳に入らず、それ以外の言葉は聞き流す。 感情の起伏が激しく、情緒不安定になりやすい。また、退屈を嫌っており、何か面白いことをいつも探している。 己の目的のためには手段を選ばず、時には恐喝や強奪まがいの行為に及ぶこともある。 「恋愛感情は一時の気の迷いで精神病の一種」という持論を持つが、キョンの言動に極度に大きく機嫌が左右されたり、 キョンの過去の恋愛をやけに気にしたりしている。事実、劇中でキョンとみくるが同じペットボトルを使いまわす(間接キス)事を止めたシーンなどがある。 第10巻『驚愕(前)』(β-7)にて、長門が熱を出して学校を休んだため、SOS団初の活動休止宣言をした。 性格・容姿 一人称は「あたし」。身長158cm。 黒髪黒目の美少女で、プロポーションはキョン曰く「スレンダーだが、出るとこは出ている」。 入学当初は腰まで伸びるストレートヘアで曜日ごとに髪形を変えていたが、キョンにそのことを指摘されて以降は肩にかかる程度の長さで揃えている。 黄色いリボン付きカチューシャがトレードマークで、小学校時代から愛用している。 普段着は女の子らしい格好が多いが、時にはアウトドアな服も着る。 彼女の書く字は、キョン曰く「元気文字」【2】。 みくるや鶴屋さん、生徒会長など、年上の人物に対しても敬語を使わずタメ口でものを言う(初対面の者との挨拶などは、例外的に丁寧語を使う)。 口癖はキョン曰く「全然」らしい【3】。 唯我独尊・傍若無人・猪突猛進かつ極端な負けず嫌いであり、「校内一の変人」としてその名は知れ渡っている。 普段は自分勝手でエキセントリックな性格が目立つが、根底には常識的な感覚も持ち合わせており、宇宙人等の不思議な存在がいて欲しいと思う反面、 そんなものはいるはずない(少なくともそう簡単に見つかるはずがない)とも思っている矛盾した思考形態を持っている。 物語が進むにつれ人間的に成長したのか横暴さは僅かずつではあるが治まっていく。 また、長門が高熱で倒れたり【4】、キョンが事故で3日間意識不明に陥った際には【5】、必死に看病したり体調を気遣ったりするなど、仲間思いの面も強く見せることもある。 愛称 キョンからは「ハルヒ」、鶴屋さんとキョンの妹からは「ハルにゃん」と呼ばれている。 正体 「どんな非常識なことでも思ったことを実現させる」力を持つ神的存在。そのため様々な組織が彼女に関心を抱いている。 しかし本人はその力に全く気付いていない。 また、似たような能力を持つ佐々木と非常に近い存在であるが敵対という関係ではない【6】。 能力 無自覚の内にハルヒの願望が具現化され、キョン達は毎度それに翻弄されている。 その力のおよぶ範囲、期間等はハルヒの機嫌や望みの強さに影響されるため、法則性がない。 なお彼女の能力が際限なく発揮されたりせず、世界がいまだにバランスを保っている点について、 古泉は「彼女自身が奇抜な言動に反し常識的な精神をしており、不可思議な物事を心のどこかで否定しているから」と推測している。 一方でみくるは、「ハルヒの力は『世界を変える』ものではなく、最初から起こることであった『超自然的存在を無自覚に発見する能力』」としており、 組織によって見解は異なる。 閉鎖空間 「内面世界」のこと。 精神が不安定になると発生する空間で、古泉ら「機関」の超能力者が侵入可能。 (詳細は「超能力者関連」の項を参照) 時空改変能力 周囲の環境情報を操作し、非常識なことでも実現可能な能力。例として、秋に桜を満開にしている。 (詳細は「神的存在関連」の項を参照) ループ現象 第5巻『暴走』収録の「エンドレスエイト」、ゲーム『約束』、『戸惑』、『並列』にてハルヒの願望によって起こった現象。 (詳細は「神的存在関連」の項を参照) 神人 閉鎖空間にて、ハルヒのストレスが具現化した存在でストレスを発散するために周囲の建物を壊す。 情報爆発 3年前の中学1年の頃にハルヒを中心に起こった現象。詳細は謎のままである。 (詳細は「宇宙人関連」の項を参照) 時間震動 3年前の中学1年の頃にハルヒを中心に起こった現象。詳細は謎のままだが、未来人はこれより前の時間遡行が不可となっている。 (詳細は「未来人関連」の項を参照) 超能力者の発生 3年前の中学1年の頃にハルヒを中心に起こった現象。古泉に力を与えたようだが、詳細は分かっていない。 (詳細は「超能力者関連」の項を参照) 分裂 第9巻『分裂』にて起こった現象。 (詳細は「神的存在関連」の項を参照) その他 消失涼宮ハルヒ 登場作品は第4巻『消失』。古泉と同じく、改変世界にて共学となった光陽園学院の生徒となっており、髪型も北高入学当時の髪型であった。 キョンのことを知らなかったが、キョンからジョン・スミスであることを告げられ、繋がった。 また、北高の前で張り込みもしていたらしく、キョン(ジョン・スミス)が出てくるのを待っていたようだ。 渡橋泰水(わたはしやすみ) 初登場は第10巻『驚愕』(前)のα-9。ハルヒの入団試験を唯一突破し、入団した新人部員。ニコちゃんマークに似た髪留めをつけている。人懐っこい性格。 第9巻『分裂』のα-1にて、入浴中のキョンに電話を掛けてきたのが彼女である。古泉曰く純粋な個人で、長門曰く北高に在籍しておらず、宇宙人でも、未来人でも、 超能力者でも、異世界人でもない。αルートのみならず、βルートとも行き来できる。 その正体は藤原の歴史改変計画と、キョンと長門の危機を無意識に予知していたハルヒが無意識に作り出したもう一人のハルヒ。 藤原たちを止めるためには、「佐々木の閉鎖空間」に閉じ込められたキョンのもとに古泉たちを導く必要があり、 「佐々木の閉鎖空間」の中に古泉が侵入できる「ハルヒの閉鎖空間」を作る状況にするために世界を二つに分岐させる。 そしてβルートのキョンたちが「佐々木の閉鎖空間」の部室に着くのを見計らって、αルートのキョンを部室に呼び出し、 最後に二つの世界を統合させて「ハルヒの閉鎖空間」を呼び出した。閉鎖空間内において神人を操作する事も可能な力を見せた。 超勇者ハルヒ ゲーム『戸惑』にて完成したゲームの一つ「SOS団 QUEST 勇者と導かれし従者」にて登場する。「超勇者」と書かれた腕章を付けており、サーベルを武器とする。 涼宮ハルヒ(スーパーSOS大戦) ゲーム『戸惑』にて作成したゲームの一つ「スーパーSOS大戦 -地球が情報操作される日-」にて登場する。 キョンと長門のピンチを救うため、古泉、みくるとともに朝倉の異空間へと侵入する。 偽涼宮ハルヒ ゲーム『直列』のEpisode5「誰も寝てはならない」にて、昇降口にある鏡に映った。 性格はオリジナルとは正反対であり、自我を持たない。また、本人はいないはずだったが鏡に映り、目つきも他の偽物同様、怖くなっている。 その他(対極関係者) 佐々木 脚注 第8巻『憤慨』収録の「編集長★一直線!」70頁より。 第1巻『憂鬱』より。 第5巻『暴走』収録の「雪山症候群」より。 第4巻『消失』より。 第9巻『分裂』(β-4)より、キョン曰く「こいつ(佐々木)は敵にならない」。 関連記事 神的存在関連 関連人物 キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん キョンの妹 谷口 国木田 阪中
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/305.html
ハルヒ先輩4から 「ハルヒ、前から言ってたけど、明日から修学旅行だ。2泊3日だけど、その間会えないから」 「なんで?」 「なんでって、旅行だし、この町離れるから」 「父兄参加はないの?」 「ない!と言うか、父兄じゃないだろ!?」 「保護者扱いにしなさい」 「保護者も同伴しない! っていうか、修学旅行だぞ、同じ高校だったんだし、ハルヒも行っただろ?」 「ううん、行ってない。団体行動に対してモチベーション低かったから」 「いや、学校自体が団体行動の固まりだろ!」 「とにかく連れていきなさい!」 「首にすがりついてゴロゴロしても無理!」 「どうしても?」 「上目使いしても、くらくらするけど、無理。だいたい俺の一存に左右される学校行事なんてないだろ!?」 「じゃあ校長を堕してくる」 「やめろ。本気でできそうだから、やめてくれ」 「じゃあ、土壇場にしか働かない知恵をさっさと働かせなさい!」 「ひどい言われようだ。……毎晩、かならず電話するから」 「あんたね、そこらへんの高校生カップルとは訳が違うのよ!そんなので満足できるわけないでしょ!」 「いや、おれ高校生だし。満足いかなくても我慢するのが大人というものでは?」 「わかったわ。あんたが修学旅行に行けないように、拉致ればいいわけね」 「ぜーんぜん、分かってないぞ!」 「つまり、あんたはあたしと二人で大人の修学旅行をするという訳よ」 「へんなところに『大人』とか入れるな!いろいろいろいろ、もてあますだろ!」 「それは、すなわち『期待』してるということね!」 「ああ、俺自身が堕ちていく……」 「修学旅行に行けなくなったっていえば、積みたて金も払い戻してくれるし、軍資金もばっちりよ!親だってその期間、子供が旅行に行くことは折込済みだし」 「修学旅行を偽装したバカップル・ツアーがはびこったら、どうする?修学旅行崩壊だぞ」 「じゃあ聞くけど、今時修学旅行で何が学べるのかしら? 100個上げられたら考え直してあげる」 「100は企画者でも無理じゃないか?」 「何十年前から繰り返し、京都や奈良の神社仏閣を見て、何が楽しいの? しかも観光コース化された有名寺院ばっかり! 奈良の遺跡なんて結局お墓ばっかりじゃないの! 京都にはね、何度も戦場になってるから、怪奇スポットには事欠かないわ。それに縁切り寺もあれば、わら人形スポットも、BL向け縁結び寺だってあるの。こういう事実を隠蔽して、金ピカ寺院で鹿にせんべいやって、木刀で大仏の腕を切り落として、何が修学よ。どんな学を修めるっていうの!?」 「いや、俺たちの学校は関西だから、その京都・奈良にすら行かん!!」 「☆※*#★%$!!!」 「%*※★#$☆!!」 ………… ……… …… … 「はあはあ、わかったわ」 「はあはあ、そうか、わかってくれたか」 「修学旅行でもどこへでも行って来なさい!」 「そんな捨て鉢な」 「さびしくなったら、あんたの携帯に電話する!」 「ああ、そうしろ」 「あたしも何時かけたくなるかわかんないし、昼間とかどっか見学してる時は邪魔だろうから、留守録にしとくといいわ」 「すまんな。気をつかわせて」 「いいわよ。そのかわり、留守録にはことごとくエロボイスを吹き込んどくから」 「え、エロボイスって何?」 「いわゆる、あえぎ声よ。詳しく言うと、性的に感じて思わず出ちゃう声ね」 「詳しく言うな!」 「もてあまして、旅行を抜け出して帰ってきても無駄よ。あたしも旅行に出て留守にしとくから」 「ハルヒ、分かってるのか?それって刺し違いだぞ。相手にダメージ与えるつもりで、自分も同じだけ食らうんだぞ」 「確かにそうね。じゃあ、あんたもエロボイスをあたしの携帯に入れておきなさい。さびしくなったら、それ聞いてしのぐから」 「ちょっと待て。な、なにをしのぐんだよ!」 「というより、今ここで、録音すればいいわけよね」 「腕をまくるな、唇を舐めるな! うまく間合いを詰めてくるな!ハ、ハルヒ。言っとくが、ここは天下の公道だ」 「少し路地に入れば、誰も来ないわよ。2千円出すから、とりあえずシャツを脱ぎなさい」 「そ、そういうのをな、青少年愛護条例違反っていうんだぞ! いけない大人め!」 「冗談よ。ああ、こういう冗談を3日間も我慢しなきゃならないなんて、耐えられるかしら」 「こういう冗談だったら、永遠になくても耐えられるぞ。それに、おまえは冗談のつもりでも、第3者的には立派にセクハラだぞ」 「ちょっと、キョン、喜びなさい! あんたとアホな話をしてたら、名案が浮かんだわ。これならあんたもあたしも文句ないはずよ。やっぱり欲望は発明の母ね」 「いや、普通は『必要は発明の母』っていうんだが……激しく不安だが、それって本当に名案なのか?」 ● ● ● 「点呼だ。この部屋……は、そうか。一人除いて全員いるか?」 「せんせーい。今夜もキョン君がいません」 「聞こえん。午後6時から午前7時まで、あいつの話をしても当局は一切関知しないからそのつもりで。じゃ、あんまり夜ふかしするなよ」 ● ● ● 「最初からこうすればよかったのよ!」 「どうやって、こんなめちゃくちゃな話、通したんだよ!?」 「聞きたいの?」 「……聞きたくない」 「これなら、あんたも修学旅行に参加できるし、『大人の〜』改め『夜の修学旅行』もあたしと楽しめる。誰も損害をこうむる人がいない、まさにwin−winのソリューションね!」 「俺の体が持たん……。あと『夜の』ってのもやめろよ」 「修学旅行なんて半分は移動時間なんだから、バスや電車のなかでたっぷり眠りなさい。今夜も寝かせないからね♪」 ハルヒ先輩6へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4531.html
「うあぁっ!」 この間抜けな悲鳴が誰のものか。時間帯は早朝。場所は俺の部屋である。となると俺しかいない。しかし情けないと思うことなかれ。誰だって目が覚めた時に、半透明の人間がいたらびっくりするだろう?今日は妹が起こしにやってくるだろう時間より、つまり、いつもよりも早く目が覚めた。俺が目を開けたときに最初に見たものは、幽霊だった。 幾分か冷静さを取り戻してみると、幽霊の姿が馴染み深いものだと気づいた。 「スタプラ…?」 そう。その姿は、とある漫画のキャラクターそのままだった。原住民を連想させる筋骨隆々な姿。明らかに人間とはかけ離れた、薄く青い肌。そして俺を見据える真っ直ぐな眼は、漫画で見た「星の白金」そのままだった。…いよいよ、ハルヒパワーは俺にまで及んできたようだ。まさか俺がスタンドを持つことになるとは…。どうせならハーヴェストみたいなのが便利だなー、と日ごろから思っていたのだが。まあなんだかんだで厄介ごとには慣れている。とりあえず学校に行って古泉あたりにも聞こう。やれや… 『君のおっっぱいはっせっかいいち!』 突然携帯が鳴り出した。というか着信音が変わってやがる!…古泉に会う理由がもう一つ増えたようだ。さて、こんな時間帯にかけてくる人物は一人しかいないわけで。 「案の定かよ…」 ディスプレイ表示されているのは、ご存知、涼官ハルヒ。SOS団の団長様である。 「なんだ…朝っぱらから」 「ちょっと!私!超能力者になった!学校!来い!」 日本語を覚えたてのインド人のほうが、まだうまく話せるだろう。が、俺だって前述のとうり厄介慣れはしているんだ。どうやらこの様子だと、俺と同じ――つまり、こいつも『スタンド使い』のようだ。 「そんな事どうでも良いの!早く来いっていってんのよ!?」 「わかったよ!すぐ行く!」 さて家族たちが眼を覚まさぬ中、俺はひっそりとトーストを食べながら、これからの日々に不安と期待を抱くのであった。 やはり早朝というものは気分がいい。だからといって、これから起床時間を早めようとは思わないのだが。 俺はどちらかといえば、特別な力を持つ者の、補助的な位置が良いと言った(思った?)記憶がある。しかし、それが超能力が要らない、と繋がるわけでもない。「スタンド使いになりたい」という願いが一般的ではないにしろ、超能力をほしいと思う事は誰にでもあるだろう。俺はその願いを叶えてしまったのだ。正確には叶えられた、というのが正しいのだが。気分が良いに決まっているだろう?ああ、もちろん性的な意味でスタンドは使わないぜ?…そういった意味なら『メタリカ』のほうが良かったか。いまいち日常生活では役立ちそうにない『星の白金』を眺め、考える。 ようやく学校までたどり着く。こんな時間に来るのは熱心に部活動に打ち込むもの。もしくは只の馬鹿。それぐらいしかない。そのどちらでもない俺は(特に後者は違うと願いたい)ハルヒの靴を確認し…まあお決まりの部室棟へと向かった。 「遅い!」 文芸部…の物だったドアを開けた俺は、本人の確認もされず、いきなり罵声を浴びせられる。呼び出した張本人は、ホームポジションにどっかりと座っている。というか俺じゃなかったらどうするんだ。 「だってあんたしか呼んでないもん」 「ほかの皆は?」 「だってあんたに最初に見てほしかっ……なんでもないっ!」 あー、ゴニョゴニョいってちゃ聞こえやせんぜ?団長さん。 「うるさいっ!それよりあんた『見える』?」 「ああ?見えるって…」 まあ予想通りという奴だ。ハルヒに重なって見えるのは『黄金』に輝くスタンドだった。 「ゴールド・エクスペリエンス…」 「あんた知ってんの?」 何を隠そう、俺はジョジョの大ファンだ。なるほど、そういやお前の名前とあいつの名前…似てたな。 「ふふん。あんたとは話が合いそうね…って『見える』って事にはキョンきさま使えるなッ!」 答える必要はない。ゆっくりと俺の…いやとある海洋学者の物かもしれないものを出現させる。 「スター…プラチナ……ここまではっきりとした形でだせるとは……意外ッ!」 「きさまもおれと同じような…『悪霊』をもっているとは…」 「「………………………………」」 「フフ……」 「……フフフ…」 いや意外な奴と話が合うものだ…。しかもハルヒの読み込みっぷりも半端じゃない。これは久々に『語れ』るなッ! 結局、スタンドが使えるようになる、ジョジョ仲間が見つかる等のため語るだけで時間が過ぎていった。いやそれはそれでとても楽しかったので良かったのだが。授業中に、冷静になり考え直すと、かなりの異常事態の気がする。とりあえず古泉にメールで相談したのだが、 From,古泉 件名,Re 本文.スタンドってなんですか>< イラッとくるメールでした。 To,古泉 件名,Re 本文,簡単にいえば超能力 まあこういう他ないよな…。一般人が考える超能力としては何かずれている気がするが…。 From,古泉 件名,Re Re Re 本文.おや…あなたも僕の世界に来ますか…? 歓迎しますよ! 決して歓迎されたくはない。 To,古泉 件名,Re Re Re 本文,いや、お前とはまた違う能力だ あいつの誘いを華麗にスルーしてやらないとな。 別の意味で『男の世界』な気がしていやな気がする。 From,古泉 件名,Re Re Re Re Re 本文.ようこそ………『男の世界』へ………… 知ってんじゃねーか!! 急に背筋に冷たいものを感じる。絶対あいつはベーコンレタスだ。これだけは確信を持てる。 To,古泉 件名,Re Re Re Re Re 本文,放課後に 長門のごとく、みっじかい文章で話を強制終了。その後、「僕の下もスタンドです」のようなメールが着たが、きっと、スタンド攻撃を受けているのだろうと思いたい。 いつも思うのだが、睡眠ってある意味タイムマシンじゃね? 早朝から叩き起こされたおかげで、睡魔の猛攻撃を喰らい、あっという間に放課後へと。 「待っていましたよ」 俺は本当の『紳士』である。いつだって、ドアにノックは欠かさないし、朝比奈さんへの感謝も欠かさない。その他にも、いろいろと忍耐強く、面倒見のいい人間である。でもさ、キレてもいいだろ?今朝のことからメールのこと、朝比奈さんのエンジェルボイスを期待したのに、エセ紳士が微笑みながら前かがみで見つめてくれば。しかも、頬を赤らめて。 「とりあえず殴らせてくれ」 「いやですね。ジョークですよ」 そう言った古泉は姿勢を正し、ハハハと、とって付けたような笑い声をもらした。部室には今現在、殴れば人を殺せそうな本を読む、寡黙な宇宙人、そして可愛らしいメイドさんが、困惑した顔をしている。後は目の前に立つ、気持ち悪い(きもいじゃないぞ!)エスパー少年、そしてこの俺。平たく言うとハルヒ以外がそこには集まっていた。 「はっピーうれピーよろピクねー!!」 「ハルヒ、おまえなにしてんだ」 やたらご機嫌な団長殿が、鼓膜を破りそうな勢いでドアを開けた。まあご機嫌な理由はわかるが、もう少しドアをいたわってやれ。壊しかねん。 「うっさいわねー、こんなもん壊れるほうが駄目なのよ!」 と言った矢先に、ドアが音を立てて崩れ落ちた。…実際そこまで大げさなものではないのだが、とにかくドアは完全に外れてしまっている。金具から壊れているので、修理すれば何とかなるって問題じゃないだろ。 「おいおいどうするんだ?」 「…ど、どうしよう…キョン」 意外にも、壊した本人は責任からか、非常にあせっている感じだった。しかしまあ、どうする事もできまい。今年度の部費は、これの修理に使われるかな。 「まあ任せてください」 と古泉。こっちに向かってウインクを投げかけてくる。この上なく気持ち悪いのだが、俺としては古泉が何をするかのほうが気になってしょうがなかった。 「行きますよ……ふんもっふ!」 例の気持ち悪い叫びと共に、古泉はドアを殴った。いや正確には、古泉から出現したスタンド、『クレイジー・ダイヤモンド』がドアを殴った。するとドアはするすると元の位置に戻っていく。そして、完全に元通り。 「まさか…お前もか」 「ええ、僕も…そして後ろの二人もです」 ……な、何だってー! そりゃあ驚きは隠せない。某漫画風にも叫びたくなるさ。SOS団全員スタンド使いとはな。…恐るべしハルヒパワー、といったところか。ここからは割合させてもらうが、まあハルヒが馬鹿騒ぎしたのは言うまでもなかろう。ちまみに、まとめるならば、 涼宮ハルヒ ゴールド・エクスペリエンス 朝比奈みくる ハーミット・パープル 長門有希 ストーン・フリー 古泉一樹 クレイジー・ダイヤモンド キョン スター・プラチナ となる。長門はお得意の情報操作とかで、自分の能力は良くわかっているらしいが、朝比奈さんに言って聞かせるのは困難であった。そういう意味では、戦闘向きではない能力を与えたハルヒにGJといってやりたい。そもそも、この事件の発端は、ハルヒの他愛もない妄想から始まり、たまたまその夢を見たため、らしい。正直、スタンドが欲しいなんて思ったのは、一度や二度ではない、今回の件についてはハルヒを責められんな。しかし妄想を現実にする力とか…。寿命一年縮むとかならまだしも無制限だぞ。この力が、中学生の男子に行き渡らなくて良かったとも思わせてくれたな…。 さてあれから数週間。 これといって日常には大きな変化はなかった。意外なもので、スタンドがあるからといって、寝転びながらリモコンが取れるとか、その程度の便利さであった。…後はタンスの裏に落ちたものをとるとか。しかし、そんな日常に大きな変化が訪れるとは…。 「ちょっといいですかキョン君…」 微妙に涙目で見上げてくるのは、SOS団の良心こと朝比奈さんだ。ちなみに時は放課後、場所は部室。いるのは俺とハルヒと朝比奈さん。なんとも意外な組み合わせだろうが、長門と古泉はさっさと帰ってしまった。どうも最近あいつらは仲がいいらしい。まあ古泉はノンケとして、長門は感情を持つという意味で、どちらのためにも良いことなんじゃないか。と、それはおいといて。 「どうしたんです?」 「何かあったの?」 ハルヒも不安らしく、少し困った顔で話に加わった。 「涼宮さんも聞いてくれると嬉しいです…」 ちょっと冗談ではない空気に、俺もハルヒも黙って話を聞くことにした。 「実は、最近つけられている気がするんです…ずっと見られてる感じがして」 ほう、何処のどいつだ?今すぐ血祭り、オラオラフルコースだ。3ページに渡ってやってやるぞ。 「ふーん、何処のどいつ?今すぐ血祭り、無駄無駄フルコース。7ページに渡ってやるわよ」 なんだか、ハルヒと全く同じ思考回路をしていたみたいだな。この際そんなことはどうでもいい。ストーカー野郎をフルボッコにするほうが先決だ。 「念写もしてみたんですけど…」 そういって、朝比奈さんは鞄から写真を取り出した…が、そこに写っているのは電信柱とかで、誰も写ってはいない。写真が存在するってことは、犯人は存在していることになる。しかし、これは一体どういう事か…いや考えるまでもない。 「スタンド使い…か」 写真の電信柱にはかすかに、歪みのようなものがあった。これは…つまり。 「…みくるちゃん?今日はあたし達が家まで送るわ」 「…あ、ありがとうごさいますっ」 透明になる能力…まさか俺が冗談で言ったことが、マジになるとはな…。 なるほど確かに。 俺は朝比奈さん、ハルヒと共に下校をしている。美人を二人連れて、両手に花状態でも、浮かれる場合ではなかった。明らかに痛いほどの視線が、背中に突き刺さる。そして、吐き気を催すほどの『邪悪』が。ハルヒもそれを感じ取っているらしく、真面目な顔で歩き続けている。あと少しで朝比奈さんの家らしい。そういえば初めて、朝比奈家を訪れることになるな。 「ここです」 と指差した先には、まあそこそこのマンション。長門のところほどではないが、女の子の一人暮らし?なんだ、オートロックなどは揃っていそうな感じであった。 「じゃあ、ここまでありがとうございました」 そういって朝比奈さんはエレベータへ乗り込み上の階に上がっていったのだ。何階に住んでるのかなんて知らないが、ひとまず俺たちに出来るのはマンションの敷地に入れないことだ。『奴』をな。 「出て来なさいよ」 ハルヒの呼びかけは虚しく、夕焼けの街に染みていった。マンションは高台にあるようで、町を見渡せるいい場所だった。きっとこのマンションの住人は得しているだろう。俺はこの風景をみると、どうも人の信頼関係を利用しようとした宇宙人が出てくる。何も真っ二つにしたうえで、エメリウム光線打たなくてもいいのにな。 「出て来いっていってんでしょう!」 語気を強めてハルヒがいうと、少し殺気というかなんというか、まあそんな感じのものが強くなった。俺はその殺気の元へと近づいていく。すると突然、腹に鋭い痛みが現れた。 「くっそたれ…大当たりかよ!」 予想通り。俺の腹からは、制服を突き破り、とがったナイフのような物が顔を出していた。つくづくナイフには悪い縁のある俺だな。と自嘲気味に笑った。がしかし、いきなり攻撃してしたってことは、方向は間違っていないようだ。 「スター・プラチナ…ザ…ワールド」 胃に穴が開く思いってのは、SOS団で散々したと思っていたが、実際はありえないくらい痛い。いやこの慣用句はそういう意味じゃないんだが。…俺が時を止めていられるのは、一秒弱。『メタリカ』は常に背景にとけこんでいる。じゃあ時が止まっているならどうか?周りの景色に対して透明になっているわけではないなら、そこに歪みが僅かに出来るはずッ! 「そこだッ!スター・プラチナッ!」 歪みに向かって拳を突き出す。鈍い音を立て、相手の顔の形が変わっていく。口の中でも切ったのか、血が拳に付着する。 「…時は…動き出すッ!」 殴った相手は大きく吹っ飛んでいき、公園のなかの砂場に飛び込む。幸い、公園には人影がまったく見当たらんな。 「…ッ!キョン?大丈夫!?」 砂場の土煙に気づいたハルヒが驚きの声を上げ、俺の傍による。正直、ぜんぜん大丈夫じゃない。腹が痛くてしょうがない。気を抜いたら即効で昇天しそうだ。 「…ハルヒ…すまん……ちょっとやべ」 「…ったいなぁ…君たちが、僕とみくるちゃんの愛を邪魔する権利はないはずだよ?」 おお、喋るのか。てっきり無口な奴かと思った。いかにもストーカーですっ!といった、ボサボサの髪の毛に、黒尽くめの服装。明らかにヤバイ奴である。酒の名前はついてないだろうが、それなりの迫力はあった。でもまあ、 「黙れよ…二度と喋んな」 俺の自慢の低音ボイスで相手を威嚇。意味はないかもしれないがな。先の攻撃はダメージこそ与えはしたが、致命傷にはならなかったようだ。奴の姿は消え、不気味な気配だけが辺りを包んだ。 「だいだいみくるちゃんを愛してるのは僕だし、愛せるのは僕だけなんだ」 「黙れ…とキョンがさっき言わなかった?二度も言わせるなんて、あんた馬鹿でしょ?みくるちゃんには関わらないで!」 「…君は誰だい?みくるちゃんと気安く呼ぶな!」 きっと攻撃がくると思いハルヒの前へ出る。当然、大量の剃刀を吐き出す結果になるわけなんだが。 「キョ、キョン!何やってんの!?」 仕方ねーだろ。無意識に動いていたんだ。そんな事に文句…言……やべぇ確実に鉄分足りねぇ。頭がボーッとしてきた。 「…ッ…いいかハルヒ…お前だ……お前がやるんだ」 「そんなことより早く血を作んないと!」 「すぐには間に合わん……俺じゃあ…あいつに止めをさせない…お前なんだ」 「何言ってんのよ!あんた死んじゃうのよ!」 ずっと泣きじゃくるハルヒを見るのは新鮮だったし、可愛かった。そうだ、まだ俺は死ぬわけにはいかん。SOS団の皆と、ハルヒと、思い出をまだ作んないといけないからな。 「いいか…俺はあいつを思いっきり殴ったんだ……血が出るほどにな」 「……!」 「どうしたの死んじゃうの?フヒヒ!死んじゃうんだぁ!」 例によってムカつく声を聞きながら、ゆっくりと俺は目を閉じた。 「キョンの『意志』は継がなくてはならない。あたし達が、笑ってまたSOS団を楽しむには、ここでこいつをたおさなくてはならないッ!わかる?あたしの『覚悟』が!」 あたしは、ひとまずキョンの血を作った。さてこれからどうするかだけど。…勿論やることは決まっている。キョンが残した、あいつの血からハエを作る。ハエの行き先からあいつの場所を特定しようと… 「知ってる?鉄分って誰でも持っているんだ。たとえ虫でもね!」 「分かんないの?あたしは確かな『意思』をもって動いてんのよ?」 迷わずにあたしは一方向へ。あらかじめ何匹ものハエを飛ばし、その中で最初にやられたハエの方向に走っていくだけ、方向は『大体』で構わない。 「意味ないんだよォォォォ!食らえッ!!」 あたしの伸ばした右手からはさみが飛び出そうとする。が、無駄。右腕を切り落とし、磁力で引っ張られるほうへと、確実にあいつに近づいていっているはずだ。後一歩…ここだッ! 「『覚悟』を持ってるんでしょ?あたし達を殺そうとするならねッッ!食らえ『ゴールド・エクスペリエンス』ッ!」 左の拳が届く直前に、腕に針やら、ナイフやらがこれでもかと作られた。当然の結果、この拳は届くはずもない。ゆっくりとあたしは崩れ落ちる。でも大丈夫…だって 「…『覚悟』はいいか?俺は出来てる」 ハルヒが崩れ落ちる瞬間。俺は再び時を止めた。ここまで追い詰めれば遠慮することはいらない。さて、3ページやらしてもらうかな 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!!」 相変わらず、腹が痛むがとてもさわやかな気分だ! 「えへへ…ありがと…キョン」 「無茶しすぎだ!死んだらどうするんだ!」 「だいじょーぶ……ちゃんと生きてるじゃない」 「…それは結果論だろ?はぁ…」 「えへへ…」 「「やれやれだぜ」」 今回の件についてだが、結局犯人の身元は機関で預かるそうだ。まあ警察では裁けないからな。しかし、他にもスタンド使いがたくさんいると思うと寒気がしてくる。 さて、どうして俺が立ち上がったのかだが、答えは、最初から俺は気絶などしていなかったんだ。まあ、いわゆる死んだ振りって奴だ。…そこ、物投げない。大体、俺は目を閉じたとはいったが、気絶したなんて一言も言ってねえぞ。…だから物投げんなって。そもそも作者が頭悪い上に、文章力皆無なんだよ!だからな? 「すげー!サルが文章書いてる!」 ぐらいの気持ちでみてくれよ。な?
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/520.html
涼宮ハルヒの改竄 version H 涼宮ハルヒの改竄 version K
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1008.html
―――― 二日目 1― 修学旅行の夜というのは騒ぐことが義務付けられたようなもので意味も無く高いテンシ ョンのままで意識が途切れた。朝、目を覚ますと俺以外で起きている人間はいかった。眠 い目をこすりつつ洗顔所で顔を洗い歯を磨き出すものを出して部屋に戻るとなぜか古泉が いた。 「古泉、貴様何をしている。」 「あのですね。あなたを起こそうと思ってきたのですが・・・。来るのが少し遅かったよ うですね。」 「そうか、それならひとつ質問だ。」 「・・・なんでしょう。」 「なぜ貴様はパンツ一丁なんだ?」 「・・・。」 「・・・。」 「マッガーレ!!」 くそ、逃げやがったか。まさかクラスのやつがいる前で来るとはな。油断のならんやつ だ。くそ、朝から胸クソ悪ぃ。明日はもう少し早く起きる必要がありそうだな。 続々とクラスの男が起きる中俺は谷口、国木田と朝食会場へ向かった。会場にはすでに 四十人ほどの北高生がうろちょろしていた。 ゆっくりとバイキング形式の朝食を食べ、コーヒーをいただく。静かで言い朝だ、など と思うまもなく、 「キョン!ついにSOS団の世界進出の日が来たわね。」 朝からテンションが高いな。 「お前はおはようもいえないのか?」 「いちいちうるさいわね。」 うるさいのはお前だぞ、ハルヒ。 「と・に・か・く!今日は大事な日なんだからちゃんと準備しなさいよ。」 準備といっても特にすることも無いんだがな。そういうとハルヒは颯爽と去っていった。 二日目の予定は自由行動。昼食、夕食も各自でとり集合も午後七時と学校の放任主義が 前面に押し出された内容となっており、今回の旅行のメインイベントといえるものであっ た。 とはいえ、われらSOS団にとってはこの日こそが台湾支部立ち上げの日であり台北市 内に不思議を探しに行くことが内定済みであった。修学旅行まで来て普通の休日と同じよ うに過ごさなきゃいけないのはなぜなんだろう。 というわけで、俺たちはホテルの前で作戦会議をしている。ここまできて二つの半に班 分けるとハルヒが言い出した。 「いつものようにやらなきゃ意味ないじゃないの。有希、あれ出して。」 「・・・・。」 無言で爪楊枝を出す長門。 「さぁ、さっさと引きなさい!」 結果はいうまでもない。俺とハルヒ、長門と古泉という組み合わせだ。 「ふぅん。アンタと?まぁいいわ。さぁ早く行きましょ。」 ハルヒが腕に抱きつき俺を台北の街へ引っ張っていく。 このときはまだ知らなかった。この後に起こる悲劇のことなんて。 ―――二日目 1 Fin 二日目2